お題:闇、ハロウィン #カップリング #ヒロアカ #荼炎 #燈炎
光の当たる場所にいたことは、闇を渡り歩くようになってからわかる。
誰にも、特にお父さんには言えなかったけど実は暗い場所は見るのも居るのも怖かったけど、今はそんなこと言ってられなくなった。焼けこげてつぎ当てた皮膚の色がどんどん沈着しているのと、皮膚だけでなく筋肉にまで食い込んでいる縫い跡があんまりにもバケモノで陽が落ちてから、夜の深い闇に紛れる以外の選択肢がなくなった。且つ、深くフードを被ってマスクをする怪しい風貌でも干渉されない環境といえば人間の個体数の母数が多い都会になる。
そんな俺がそこでしか生きられない時間・場所であるにもかかわらずハロウィンという祭で一儲けしようとした層のせいで静かな散歩すらできなくなってしまう。
「あ! オニーサァン笑 どしたんすかそんな俯いちゃってさ〜!!今日ハロウィンすよ!盛り上がっていかなきゃ損ですよぉ〜!!」
なんていう輩に絡まれてしまう。普段人通りなんて皆無である道を選んでも、だ。ここで消し炭にしてやることも時間をかけてじっくり殺してやることもできる。けどなんか気分が乗らないのはヤツのハロウィンコスがエンデヴァーだったからだ。
「お前、エンデヴァーのファンなの」
「いやショージキファンではないかな! 俺の体格に合ってるヒロコスの中でドンキで投げ売りになってるのがコレだったってわけ」
「ふーん…… エンデヴァーっていいところないかな」
「無いわけじゃないとは思うけど……俺には見えてこないかな〜……ってか、オニーサンエンデヴァーのファン?! 同担拒否? オニーサンもエンデヴァーコス買ったら?!」
「ファン……ファンってか、まぁ複雑な気持ち」
「そうなんだ〜 までも、俺が見た時まだ全然在庫あったよ!」
「そうなんだ。ありがと」
「いいってことよ!じゃね♡」
騒々しい男はぬるくなった缶ビールを押し付けて去っていった。初めて飲むビールは成人式のあとお父さんとって決めてたけどもう叶わないだろうからまぁいいかと思いプルタブをあげておろした。
苦くて、つまんない味だった。胃のあたたかさや思考を奪う酩酊感もなにも楽しくない。
昔お母さんにお願いしてお父さんのヒーロースーツを模した服を作ってもらったのを思い出した。本当にうれしくて、どこに行くにも着て行ったのを思い出して虚しさと怒りと、それと何か言語化しにくい気持ちが湧いてきた。オールマイトのは腐るほど売られてたけどまぁ、お父さんは一般ウケしなかったらしくて売ってなかった。だから特別だったんだけどあんなにわかが着てるくらい陳腐なものになってしまったとわかって心から苛立った。
とはいえ、父さんはヒロコスが売られるほど人気が出てきたみたいで、背筋がむずむずする。この積み上げた信頼、浮ついた人気、お父さんの考える正しさをめちゃくちゃにできるのかと思うと胸が躍った。踊るっていうか、胸がぽかぽかするっていうか。好きな子のとまどう顔が見たいってのもまた愛だよな。
出かけた時とは打って変わって機嫌良く帰宅(ってもダンボール敷いた公園だけど)した。
「お! ケンちゃん。今日はなんかご機嫌だな」
「うん。いいことあってさ」
「よかったなぁ。でも今日は気をつけてな。羽目を外した若いやつらに殺される路上生活のやつらは片手で足りないくらいいるからな」
「わかった。ありがと」
こんな満たされた気持ちになったのはいつぶりだろう。そして、また次にこんな気持ちになれるのはいつだろう。いつものようにスマホで登録者が全然いないお父さんのYouTubeチャンネルを視聴する。今日も悪いヤツをやっつけたんだって。お父さんの考える、悪いヤツを。
お父さんは、お父さん的には悪いヤツじゃないらしい。そこが面白くて俺は画面の向こうのお父さんから目を離せない。お父さんの考える正しさって何。それを聞く前に俺は捨てられてしまったから、今度ちゃんと話す機会があるなら聞いてみたいな。畳む
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みやこ 成人/神奈川への望郷の念が強い
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タグ「燈炎」を含む投稿[15件]
お題:星月夜 #ヒロアカ #カップリング #荼炎 #燈炎
お題:星月夜 #ヒロアカ #カップリング #荼炎 #燈炎
瀬古渡で泣いてた俺も、こんな夜空を見ていたっけな。
いや、夜空なんか見る余裕もなくってお父さんが来てくれるのを待ってた。いまこうしてしみじみと星を眺めていられるのは、俺が何者がみんなに知ってもらえたからだと思う。
すごく晴れ晴れとした気分だ。
秘密を一人で抱えるのは本当に辛かった。生きていくことが辛すぎてお父さんの提示した人生を生きることが頭によぎったのは一度や二度じゃない。
けどそのたび、望んだ性能を持った新しいオモチャで遊ぶお父さんを見て、そして俺の仏壇に手を合わせたときにやっと決意が固まった。
お父さん、震えてた。
ショックだったのかな。自分が厳格に守ってきた正しさに反している息子がいて。
あの時、俺が生きていると分かった時焦凍のことも何もかも忘れて「燈矢、生きていたのか!心配してたんだぞ」の一言や、駆け寄って抱きしめるとかそういうのがあったらここまで拗れてないかもしれないけど、お父さんは目を見開いて震えてるだけだった。俺が炎をけしかけても、焦凍が必死に呼びかけても。
今ごろお父さんどうしてるかな。お父さんの病院で治療を受けてるみたいだけど、アンチが病院まで押しかけて大変そう。病室から俺が見てるのと同じ月を見てるんだろうか。
ここまで長かったぶん、暴露してしまってからの時間が充実しすぎていてたまらず笑顔になる。顔の筋肉がひきつれて痛いけど、やっとここまで来れたと思ったら笑いが止まらなかった
。
俺のこと考えてるかな。なんて言おうとか、そういうの。次会った時、なんで言うかな。俺のこと、なんて呼ぶのかな。
瀬古渡で泣いてた俺も、こんな夜空を見ていたっけな。
いや、夜空なんか見る余裕もなくってお父さんが来てくれるのを待ってた。いまこうしてしみじみと星を眺めていられるのは、俺が何者がみんなに知ってもらえたからだと思う。
すごく晴れ晴れとした気分だ。
秘密を一人で抱えるのは本当に辛かった。生きていくことが辛すぎてお父さんの提示した人生を生きることが頭によぎったのは一度や二度じゃない。
けどそのたび、望んだ性能を持った新しいオモチャで遊ぶお父さんを見て、そして俺の仏壇に手を合わせたときにやっと決意が固まった。
お父さん、震えてた。
ショックだったのかな。自分が厳格に守ってきた正しさに反している息子がいて。
あの時、俺が生きていると分かった時焦凍のことも何もかも忘れて「燈矢、生きていたのか!心配してたんだぞ」の一言や、駆け寄って抱きしめるとかそういうのがあったらここまで拗れてないかもしれないけど、お父さんは目を見開いて震えてるだけだった。俺が炎をけしかけても、焦凍が必死に呼びかけても。
今ごろお父さんどうしてるかな。お父さんの病院で治療を受けてるみたいだけど、アンチが病院まで押しかけて大変そう。病室から俺が見てるのと同じ月を見てるんだろうか。
ここまで長かったぶん、暴露してしまってからの時間が充実しすぎていてたまらず笑顔になる。顔の筋肉がひきつれて痛いけど、やっとここまで来れたと思ったら笑いが止まらなかった
。
俺のこと考えてるかな。なんて言おうとか、そういうの。次会った時、なんで言うかな。俺のこと、なんて呼ぶのかな。
お題:もしも #カップリング #ヒロアカ #荼炎 #燈炎
お題:もしも #カップリング #ヒロアカ #荼炎 #燈炎
もしも、もしも俺がお父さんの個性だけを受け継いでお父さんを超える炎を出し続けてもなんの支障もないからだに生まれていたら、どんな人生を送っただろう。
高校なんか行かなくてもお父さんの右腕として活躍していたかもしれない。
でもお父さんは高校は行った方がいいと、俺に興味を持っているから進路に口を出してきたかもしれない。俺は仕方ないなぁなんて言って、雄英でアオハルしたりできたのかもしれない。
仲間と切磋琢磨して、お父さんの過保護を嘆いてみせたりして、自分の才能に酔いしれるタイミングがあるかもしれない。
ああ、俺は俺に生まれて良かったと、心から思えたかもしれない。
……そんな夢を見た日は本当に気分が悪い。心からそうであって欲しかった未来が決して手に入らないものであると何度でも思い知らないといけなくなる。そんな自分が可哀想で、ダサくて。
もしも、なんて夢想は俺が叶えない限り現実にはならないんだよ。努力しないと、夢は現実にならないんだよ。……努力したって、叶わないことだってあるんだよ。生まれつきのことは、努力したって満足いかない結果になることの方が多い。そんなの俺が一番わかっているし、そのために俺が今できることを頑張っているのに俺の深層心理はそう思ってなくて、何の努力もしないでこう在れたら、と俺の脳に映し出す。残酷すぎて涙が出そうだ。
ひとしきり毒づいたら、顔を洗って歩き出す。俺は、俺のやり方でお父さんに俺を認めさせる。夢見る乙女なんてやらねぇ。夢は見るけど、俺が俺の手で叶える。
なんだか少年漫画の主人公みたいだ。友情努力勝利。友情は無ぇけど、努力と勝利はあるだろ。
そんな鮮烈な復讐心を、いまだに思い出す。
焼け爛れた身体を懸命に世話をするかつて俺がこうありたいと心から願った人。こうありたかったからこそ、もう何もできない俺の世話を焼くみたいなつまんねぇことやって欲しくなかった。本当に本当に、この人生は……言葉にならない虚しさに襲われる。
もし、願いが叶うなら……戦いの中で死にたかった。たぶんあのまま家族を皆殺しにしてしまっていたら後悔しただろうけど、なんの価値もなくみじめったらしく排泄物を垂れ流すより全然ましだ。巨悪は去り、ハッピーエンドみたいな空気になってるのを見るのも嫌だ。
もし、願いが、今からでも、叶うなら……
すべてやり直して、俺が俺のやり方でヒーローに……
それは無理か。俺はフツウに生きるしか道が用意されてなくて、俺はそう生きたいわけじゃなかったんだから。お父さんがあの時来てくれていたなら、まだ何か変わったかな。
いや、そのもしもは叶わない。お父さんは、俺のところになんか来ない。行けなくて、じゃなくて行かなくて、なんだから。俺のお願いなんてとっくに聞いてもらえなかったんだよ。お父さんにとって、価値がなかったから。
わかっているはずなのに、あまりにひどいやつを好きになってしまって苦しくて笑いが止まらない。お父さんは能天気に「燈矢、うれしいことがあったのか?」なんてニコニコしてるし。もう個性もないから何もできないけど、バカバカしくって逆に面白い。ひどいやつ。大嫌い。大嫌い。大嫌い。
もしも、もしも俺がお父さんの個性だけを受け継いでお父さんを超える炎を出し続けてもなんの支障もないからだに生まれていたら、どんな人生を送っただろう。
高校なんか行かなくてもお父さんの右腕として活躍していたかもしれない。
でもお父さんは高校は行った方がいいと、俺に興味を持っているから進路に口を出してきたかもしれない。俺は仕方ないなぁなんて言って、雄英でアオハルしたりできたのかもしれない。
仲間と切磋琢磨して、お父さんの過保護を嘆いてみせたりして、自分の才能に酔いしれるタイミングがあるかもしれない。
ああ、俺は俺に生まれて良かったと、心から思えたかもしれない。
……そんな夢を見た日は本当に気分が悪い。心からそうであって欲しかった未来が決して手に入らないものであると何度でも思い知らないといけなくなる。そんな自分が可哀想で、ダサくて。
もしも、なんて夢想は俺が叶えない限り現実にはならないんだよ。努力しないと、夢は現実にならないんだよ。……努力したって、叶わないことだってあるんだよ。生まれつきのことは、努力したって満足いかない結果になることの方が多い。そんなの俺が一番わかっているし、そのために俺が今できることを頑張っているのに俺の深層心理はそう思ってなくて、何の努力もしないでこう在れたら、と俺の脳に映し出す。残酷すぎて涙が出そうだ。
ひとしきり毒づいたら、顔を洗って歩き出す。俺は、俺のやり方でお父さんに俺を認めさせる。夢見る乙女なんてやらねぇ。夢は見るけど、俺が俺の手で叶える。
なんだか少年漫画の主人公みたいだ。友情努力勝利。友情は無ぇけど、努力と勝利はあるだろ。
そんな鮮烈な復讐心を、いまだに思い出す。
焼け爛れた身体を懸命に世話をするかつて俺がこうありたいと心から願った人。こうありたかったからこそ、もう何もできない俺の世話を焼くみたいなつまんねぇことやって欲しくなかった。本当に本当に、この人生は……言葉にならない虚しさに襲われる。
もし、願いが叶うなら……戦いの中で死にたかった。たぶんあのまま家族を皆殺しにしてしまっていたら後悔しただろうけど、なんの価値もなくみじめったらしく排泄物を垂れ流すより全然ましだ。巨悪は去り、ハッピーエンドみたいな空気になってるのを見るのも嫌だ。
もし、願いが、今からでも、叶うなら……
すべてやり直して、俺が俺のやり方でヒーローに……
それは無理か。俺はフツウに生きるしか道が用意されてなくて、俺はそう生きたいわけじゃなかったんだから。お父さんがあの時来てくれていたなら、まだ何か変わったかな。
いや、そのもしもは叶わない。お父さんは、俺のところになんか来ない。行けなくて、じゃなくて行かなくて、なんだから。俺のお願いなんてとっくに聞いてもらえなかったんだよ。お父さんにとって、価値がなかったから。
わかっているはずなのに、あまりにひどいやつを好きになってしまって苦しくて笑いが止まらない。お父さんは能天気に「燈矢、うれしいことがあったのか?」なんてニコニコしてるし。もう個性もないから何もできないけど、バカバカしくって逆に面白い。ひどいやつ。大嫌い。大嫌い。大嫌い。
地獄 #カップリング #ヒロアカ #荼炎 #燈炎
地獄 #カップリング #ヒロアカ #荼炎 #燈炎
死んだ後にも地獄があるなら、これ以上の苦しみが待ち受けてるってことなのか。
俺が想像できる苦しみはすべて受けたと思う。
望んでいた機能を持ち合わせていないがために見捨てられる不安。
持たざるものとして生きなければならないと選択を押し付けられるみじめさ。
そして、文字通り身を焼く苦しみ……お父さんは知ってるのかな。火が燃え移ったことにパニックになって大きく息を吸い込んでしまい……そして、内臓が燃えて……モツにも神経って通ってるんだぜ?
それに助かってからもじくじくと痛む深いやけど……お母さんの個性のおかげでマシなのかもしれないけど、それでも。
環境的に恵まれた幼少期とは違い、泥水を啜り食べ物も満足になく、そして腐った人間に媚びないと今日の寝床すらない、お父さんからは見えない……見ようともしない沈殿物としての生活。ここはみじめとか痛いとか苦しいとかより、怨みが俺を形作ってくれていたから、あんまり大変じゃなかった。いや、大変じゃなかったというより、痛みを感じる器官もあの日瀬古渡で焼けてしまったんだ。
それに、同じく怒りや悲しみ、そして恨みを抱えたやつらと出会えた。
陳腐な結束でまとまってる奴らだったけど、社会のあぶれ者といると少しだけ気が楽になった。大人たちが連綿と作り上げた社会からこぼれ落ちたフツウになれなかったやつらたちといると、もしかして俺が雄英に入っていたらこうやってクラスメイトたちとくだらない話をしたりしたかなと不毛な妄想に浸ったりできた。
友情とか全然感じてなかったはずなのに、つまらない死に方したやつらのことを思い出しては少しだけしんみりとすることもあった。俺にちょっとの人間らしさ、年相応の人間らしさを与えてくれたのは、もう名前も顔も思い出せないあいつらなのかもしれない。
それでも、俺の人生は間違いなく地獄だった。死んだ後もこれ以上の苦しみがあるなんてあまりにも酷じゃないか。まあでも、コロシはコロシだもんな。
どんな地獄だろうな。弱って死を待つだけになったお父さんは罪を償うポーズだけは上手くて甲斐甲斐しく世話焼いてくれてるけど、それをまたお母さんに押し付けて誰かのためのヒーローになる、とか。そんで、俺はお父さんにブチ切れる個性もなくただ弱って死んでいく。マジで最悪。
でも、お父さんはヒーローだけど天国にはいけない。子供と妻をこんなにも苛んだんだから。轟家の中で地獄に行くのは俺とお父さんくらいだろうし、地獄でもいいや。お父さんも地獄でいいよね?まぁ回答権は無いんだけど……
俺とお父さん、誰もいない地獄でもう一回親子をやろう。死んでも、ずっと一緒。かわいくて頑張り屋さんの俺のお誘いを無視したんだからそれくらい、いいだろ?
死んだ後にも地獄があるなら、これ以上の苦しみが待ち受けてるってことなのか。
俺が想像できる苦しみはすべて受けたと思う。
望んでいた機能を持ち合わせていないがために見捨てられる不安。
持たざるものとして生きなければならないと選択を押し付けられるみじめさ。
そして、文字通り身を焼く苦しみ……お父さんは知ってるのかな。火が燃え移ったことにパニックになって大きく息を吸い込んでしまい……そして、内臓が燃えて……モツにも神経って通ってるんだぜ?
それに助かってからもじくじくと痛む深いやけど……お母さんの個性のおかげでマシなのかもしれないけど、それでも。
環境的に恵まれた幼少期とは違い、泥水を啜り食べ物も満足になく、そして腐った人間に媚びないと今日の寝床すらない、お父さんからは見えない……見ようともしない沈殿物としての生活。ここはみじめとか痛いとか苦しいとかより、怨みが俺を形作ってくれていたから、あんまり大変じゃなかった。いや、大変じゃなかったというより、痛みを感じる器官もあの日瀬古渡で焼けてしまったんだ。
それに、同じく怒りや悲しみ、そして恨みを抱えたやつらと出会えた。
陳腐な結束でまとまってる奴らだったけど、社会のあぶれ者といると少しだけ気が楽になった。大人たちが連綿と作り上げた社会からこぼれ落ちたフツウになれなかったやつらたちといると、もしかして俺が雄英に入っていたらこうやってクラスメイトたちとくだらない話をしたりしたかなと不毛な妄想に浸ったりできた。
友情とか全然感じてなかったはずなのに、つまらない死に方したやつらのことを思い出しては少しだけしんみりとすることもあった。俺にちょっとの人間らしさ、年相応の人間らしさを与えてくれたのは、もう名前も顔も思い出せないあいつらなのかもしれない。
それでも、俺の人生は間違いなく地獄だった。死んだ後もこれ以上の苦しみがあるなんてあまりにも酷じゃないか。まあでも、コロシはコロシだもんな。
どんな地獄だろうな。弱って死を待つだけになったお父さんは罪を償うポーズだけは上手くて甲斐甲斐しく世話焼いてくれてるけど、それをまたお母さんに押し付けて誰かのためのヒーローになる、とか。そんで、俺はお父さんにブチ切れる個性もなくただ弱って死んでいく。マジで最悪。
でも、お父さんはヒーローだけど天国にはいけない。子供と妻をこんなにも苛んだんだから。轟家の中で地獄に行くのは俺とお父さんくらいだろうし、地獄でもいいや。お父さんも地獄でいいよね?まぁ回答権は無いんだけど……
俺とお父さん、誰もいない地獄でもう一回親子をやろう。死んでも、ずっと一緒。かわいくて頑張り屋さんの俺のお誘いを無視したんだからそれくらい、いいだろ?
ワンドロ:絆 #カップリング #ヒロアカ #荼炎 #燈炎
ワンドロ:絆 #カップリング #ヒロアカ #荼炎 #燈炎
俺の仏壇を拝んで、”荼毘”になってから数日くらいはさ……親子の絆が俺とお父さんを結びつけてくれるって思ってたんだよ。
でも実際そんなことはなくて、俺が「初めまして」だなんて言ったらお父さんは気づきもしなかった。絆なんてウソだね。お互いの努力があって関係を維持しようと関わり続ける意思のことを絆って呼んでることを、荼毘になりたての俺に伝えてやりたいよ。かわいそうな俺。もしかしたら殺し続けることでお父さんが俺のこと見つけてくれないかなって期待してたんだぜ。罪が俺たちを結ぶ絆になるかもしれないって。でもそんなことなかった。俺だって生殖にそんな夢見てるような歳じゃないけどさ、もしかしたら血のつながりにはなんかしらの絆が生まれるのかもって。でも全然そんなことなかった! 俺のこと憎らしい人殺しを見る目で見た! 俺ずーっと、お父さんのこと待ってたのに。涙なんか出るなって言ってたら本当に出なくなっちゃうまで焼けてしまったのに。お父さんがあの時来てくれたらこんなことにはなっていなかったのに。お父さんのせいなのに。
あんな目で、俺を見た。
俺の仏壇を拝んで、”荼毘”になってから数日くらいはさ……親子の絆が俺とお父さんを結びつけてくれるって思ってたんだよ。
でも実際そんなことはなくて、俺が「初めまして」だなんて言ったらお父さんは気づきもしなかった。絆なんてウソだね。お互いの努力があって関係を維持しようと関わり続ける意思のことを絆って呼んでることを、荼毘になりたての俺に伝えてやりたいよ。かわいそうな俺。もしかしたら殺し続けることでお父さんが俺のこと見つけてくれないかなって期待してたんだぜ。罪が俺たちを結ぶ絆になるかもしれないって。でもそんなことなかった。俺だって生殖にそんな夢見てるような歳じゃないけどさ、もしかしたら血のつながりにはなんかしらの絆が生まれるのかもって。でも全然そんなことなかった! 俺のこと憎らしい人殺しを見る目で見た! 俺ずーっと、お父さんのこと待ってたのに。涙なんか出るなって言ってたら本当に出なくなっちゃうまで焼けてしまったのに。お父さんがあの時来てくれたらこんなことにはなっていなかったのに。お父さんのせいなのに。
あんな目で、俺を見た。
ワンドロ:ふたり #カップリング #荼炎 #燈炎 #ヒロアカ
ワンドロ:ふたり #カップリング #荼炎 #燈炎 #ヒロアカ
あのとき、お父さん助けてとは言えなかった。助けを求めるというのは自分が相手に無償の加護を求めることであり自分が不良品であることを認めることに等しかったから。
いや、言ったほうのかもしれない。
助けて
痛い
怖い
と。
それはどれも届かなかった。そこにいない人にどれだけ伝えたいと思っても伝わるようなもんじゃない。テレパシーとかないからね。それにパニックになって叫ぼうとして深く息を吸ってしまったら、炎は簡単に肺に届き、喉を灼いた。
そして、俺は荼毘になって「はじめまして」と言った。焼けた喉から絞り出された声は燈矢のものだとわからなかったみたい。
あれから俺はうめき声しかあげれないまだ死んでない焼死体になったわけだけど、その声の方が燈矢のものだってわかるみたい。
俺がどれだけなじっても、ずっと相槌を打ってくれる。それも興味ないやつにやる適当な返事じゃなくて、ちゃんと会話になってるやつ。俺がこんなふうになる前に気づいて欲しかったんだけど、それができなかったから俺たちは……いま戻せない時を、消せない過去を取り出して眺めては今を生きている。変なの。バカみたい。でも今の俺はちょっと満足してる。許してはないけど、満足している。
あのとき、お父さん助けてとは言えなかった。助けを求めるというのは自分が相手に無償の加護を求めることであり自分が不良品であることを認めることに等しかったから。
いや、言ったほうのかもしれない。
助けて
痛い
怖い
と。
それはどれも届かなかった。そこにいない人にどれだけ伝えたいと思っても伝わるようなもんじゃない。テレパシーとかないからね。それにパニックになって叫ぼうとして深く息を吸ってしまったら、炎は簡単に肺に届き、喉を灼いた。
そして、俺は荼毘になって「はじめまして」と言った。焼けた喉から絞り出された声は燈矢のものだとわからなかったみたい。
あれから俺はうめき声しかあげれないまだ死んでない焼死体になったわけだけど、その声の方が燈矢のものだってわかるみたい。
俺がどれだけなじっても、ずっと相槌を打ってくれる。それも興味ないやつにやる適当な返事じゃなくて、ちゃんと会話になってるやつ。俺がこんなふうになる前に気づいて欲しかったんだけど、それができなかったから俺たちは……いま戻せない時を、消せない過去を取り出して眺めては今を生きている。変なの。バカみたい。でも今の俺はちょっと満足してる。許してはないけど、満足している。
永遠 #カップリング #ヒロアカ #荼炎 #燈炎
永遠 #カップリング #ヒロアカ #荼炎 #燈炎
結局お父さんは個性婚の結果として俺らを作って、何かを得ることができたんだろうか。
おだやかに風が吹くとてもいい季節なんだと思う。水の底から見る景色みたいにぼんやり歪んだ視界、ごうごうと血の流れだけが聞こえる耳、風の流れすらわからない肌。どれもがこの季節を教えてくれないけど、お父さんが教えてくれるんだ。
「燈矢、今日は風が吹いているんだ。優しい風だ。燈矢の周りにだって吹いてるぞ」
「見てごらん、あれは……何らかの鳥だ」
とか。
俺は多分もうお父さんの願い、一番になりたかったという願いを叶えてあげられない。けれどこうして大切に余生を過ごしている。ほかに願いがあるなら、俺でも叶えてあげられられる願いがあればいいんだけど、こんな身体じゃもう無理だ。俺がこの前、こんな弱くなった俺を見られたくない、捨てて欲しいと言ったら、
「なにを言うんだ燈矢。俺は燈矢に……家族に、俺がなにを大切にしなければいけなかったか、俺の本当の願いは何かということを教えてもらったんだ」
「そうなんだ……お父さんの願いって、何?」
「それは、燈矢。家族がみんな幸せを感じながら生きることだ」
「そっか……いまからでも、まだそうなれるなら、そうなりたいね……」
「過去は消えない。変えることはできない。けれど、おそらく……過去を現在や未来で雪ぐことはできると思うんだ。燈矢はどう思う」
「俺は、それでもいいよ。これから……っても、そう長くはないけど俺や俺のきょうだい達のわだかまりを雪いでよ」
「ありがとう、燈矢」
「自分の考えややりたいこと、これがイイと思った事を家族に押し付けないだけでちょっと進歩」
そうやってちょっと笑っただけで頬が裂けるように痛い。けどお父さんも苦笑いの部類では、るけど、笑ってくれたから、いい。今の俺は、それでいい。
畳む
結局お父さんは個性婚の結果として俺らを作って、何かを得ることができたんだろうか。
おだやかに風が吹くとてもいい季節なんだと思う。水の底から見る景色みたいにぼんやり歪んだ視界、ごうごうと血の流れだけが聞こえる耳、風の流れすらわからない肌。どれもがこの季節を教えてくれないけど、お父さんが教えてくれるんだ。
「燈矢、今日は風が吹いているんだ。優しい風だ。燈矢の周りにだって吹いてるぞ」
「見てごらん、あれは……何らかの鳥だ」
とか。
俺は多分もうお父さんの願い、一番になりたかったという願いを叶えてあげられない。けれどこうして大切に余生を過ごしている。ほかに願いがあるなら、俺でも叶えてあげられられる願いがあればいいんだけど、こんな身体じゃもう無理だ。俺がこの前、こんな弱くなった俺を見られたくない、捨てて欲しいと言ったら、
「なにを言うんだ燈矢。俺は燈矢に……家族に、俺がなにを大切にしなければいけなかったか、俺の本当の願いは何かということを教えてもらったんだ」
「そうなんだ……お父さんの願いって、何?」
「それは、燈矢。家族がみんな幸せを感じながら生きることだ」
「そっか……いまからでも、まだそうなれるなら、そうなりたいね……」
「過去は消えない。変えることはできない。けれど、おそらく……過去を現在や未来で雪ぐことはできると思うんだ。燈矢はどう思う」
「俺は、それでもいいよ。これから……っても、そう長くはないけど俺や俺のきょうだい達のわだかまりを雪いでよ」
「ありがとう、燈矢」
「自分の考えややりたいこと、これがイイと思った事を家族に押し付けないだけでちょっと進歩」
そうやってちょっと笑っただけで頬が裂けるように痛い。けどお父さんも苦笑いの部類では、るけど、笑ってくれたから、いい。今の俺は、それでいい。
畳む
個性の証明 #カップリング #ヒロアカ #荼炎 #燈炎
個性の証明 #カップリング #ヒロアカ #荼炎 #燈炎
西暦20XX年——ビルの光が空を覆い、人々が空を自由に駆けるようになっても、人権や個性がなくなっていない近未来。
「燈矢の体を捨てる……?」
「ええ、騙し騙しやってきましたけど、もう燈矢さんの体は限界なんです。ボロボロのまま焦凍さんと戦って、さらにボロボロになって、今までつぎはぎしてきましたけど、限界です」
「肉体を捨ててしまったら、燈矢はどうなるんです」
「そうですね。脳を機械の体に乗せましょう」
お医者様がいうことは突飛なことに聞こえたが、国内で五つの症例があるという。脳を取り出して機械の脊髄や諸神経と繋ぎ、肉体が死んだとしても生きることができるという。燈矢は一度体調を崩してから二ヶ月意識がないのでは本人に確認できないので親である俺たちが決めれるという。
冷は、生かしてやりたいという。
例え死刑を待つ身であっても、目が動いて私とコミュニケーションをとることができていた燈矢をみすみす死なせてしまいたくはないという。
俺は、決めかねていた。
手術では個性を引き継ぐことはできないという。自らの個性に強くこだわり、指先すら動かせない体でもお父さんに俺の技を見てもらいたいんだとタッチパッドを使ってコミュニケーションをとった燈矢が、果たして個性を持たない自分を受け入れることができるだろうか。
時間は予断を許さず、俺は疑問を持ちながらも燈矢の命を諦める決断はできなかった。
手術は成功した。
燈矢は肉体の死による死を免れ、医療によるメンテナンスを生涯必要とする体になった。
夏雄が見舞いに行った時に目を覚ましたという燈矢は、指先を見つめては涙をこぼしたという。指先、それは最初に炎を灯した器官だと気づき、病室に急いだ。
「お父さん、俺」
「燈矢」
「本当に……何にもなくなっちゃった……」
「燈矢、お前はお前でいてくれるだけでいいんだ」
「俺は、お父さんに認められる俺以外を俺と認めてやれないよ」
「燈矢」
「お父さんならわかってくれると思った……個性がない自分を認めてやれない気持ちがさ……死刑になるために生かされたの? 俺」
「……燈矢、それは」
「もういいよ、バイバイ。お父さん。俺はお父さんが全てだったんだよ」
「と「もう帰って」
それが永訣の別れとなるとは考えても見なかった。燈矢は死刑判決を受け、世間の声に押されて異例の早さで刑が執行された。頸部を縄で圧迫された跡が残った遺体が轟家に戻ってきた。
燈矢は最後の食事をとらずに死刑に望んだらしい。自ら栄養を取らなくても生きながらえる体を忌まわしく思っていたらしく、体を壁にぶつけるなどの自傷が目立ったという。
脳だけを燃やし、燈矢の骨壷に納めた。陶器の壺に収まった燈矢はまるで初めて抱いた時のように小さく、頼りなかった。
『個性の証明』 完
西暦20XX年——ビルの光が空を覆い、人々が空を自由に駆けるようになっても、人権や個性がなくなっていない近未来。
「燈矢の体を捨てる……?」
「ええ、騙し騙しやってきましたけど、もう燈矢さんの体は限界なんです。ボロボロのまま焦凍さんと戦って、さらにボロボロになって、今までつぎはぎしてきましたけど、限界です」
「肉体を捨ててしまったら、燈矢はどうなるんです」
「そうですね。脳を機械の体に乗せましょう」
お医者様がいうことは突飛なことに聞こえたが、国内で五つの症例があるという。脳を取り出して機械の脊髄や諸神経と繋ぎ、肉体が死んだとしても生きることができるという。燈矢は一度体調を崩してから二ヶ月意識がないのでは本人に確認できないので親である俺たちが決めれるという。
冷は、生かしてやりたいという。
例え死刑を待つ身であっても、目が動いて私とコミュニケーションをとることができていた燈矢をみすみす死なせてしまいたくはないという。
俺は、決めかねていた。
手術では個性を引き継ぐことはできないという。自らの個性に強くこだわり、指先すら動かせない体でもお父さんに俺の技を見てもらいたいんだとタッチパッドを使ってコミュニケーションをとった燈矢が、果たして個性を持たない自分を受け入れることができるだろうか。
時間は予断を許さず、俺は疑問を持ちながらも燈矢の命を諦める決断はできなかった。
手術は成功した。
燈矢は肉体の死による死を免れ、医療によるメンテナンスを生涯必要とする体になった。
夏雄が見舞いに行った時に目を覚ましたという燈矢は、指先を見つめては涙をこぼしたという。指先、それは最初に炎を灯した器官だと気づき、病室に急いだ。
「お父さん、俺」
「燈矢」
「本当に……何にもなくなっちゃった……」
「燈矢、お前はお前でいてくれるだけでいいんだ」
「俺は、お父さんに認められる俺以外を俺と認めてやれないよ」
「燈矢」
「お父さんならわかってくれると思った……個性がない自分を認めてやれない気持ちがさ……死刑になるために生かされたの? 俺」
「……燈矢、それは」
「もういいよ、バイバイ。お父さん。俺はお父さんが全てだったんだよ」
「と「もう帰って」
それが永訣の別れとなるとは考えても見なかった。燈矢は死刑判決を受け、世間の声に押されて異例の早さで刑が執行された。頸部を縄で圧迫された跡が残った遺体が轟家に戻ってきた。
燈矢は最後の食事をとらずに死刑に望んだらしい。自ら栄養を取らなくても生きながらえる体を忌まわしく思っていたらしく、体を壁にぶつけるなどの自傷が目立ったという。
脳だけを燃やし、燈矢の骨壷に納めた。陶器の壺に収まった燈矢はまるで初めて抱いた時のように小さく、頼りなかった。
『個性の証明』 完
お題:冬 #カップリング #ヒロアカ #荼炎 #燈炎
お題:冬 #カップリング #ヒロアカ #荼炎 #燈炎
夏は膿が止まらないけど、冬は肌というか、肌の下の筋組織が軋んで痛む。
痛むからといってそれから逃れる術はなく、ただうーうーと、うめくことしかできない。
お父さんは夏にできた膿を拭うより冬の肌の軋みの方が見ていてつらいらしい。前者は自分で膿をぬぐってやることができて、目に見えてそして行動として何かやったつもりになれるからいいのかもしれない。
お父さんはじつに甲斐甲斐しく俺の世話を焼く。この1%でも俺の子供時代にしてくれていたらこんなことにはなってないはずなんだけど、後悔先に立たず。
お父さんの罪であり、個性社会の膿であり、お父さんの後悔そのものである俺。ほんとはそんなふうに生まれてきたはずじゃなくて、焦凍とは性能が違うだけでSSRだったはずなんだよ。そうじゃなきゃ、あんなに焦凍やお父さんのことを追い詰めることはできなかっただろ。
数々のifをかいくぐって、俺は今お父さんの負債としてこの家の畳のシミの範囲を広げることしかできない。
どこで間違った?
何がいけなかった。
一緒に考えて、手を取り合って答えを出そう。この奇跡みたいな時間を使ってさ。俺のこと見てくれるんでしょ? それってほんとに、ただ見るだけの見る? 見て、聞いて、答えてくれる見るじゃなくて? 熱で風の音がして、よく聞こえないんだ……
夏は膿が止まらないけど、冬は肌というか、肌の下の筋組織が軋んで痛む。
痛むからといってそれから逃れる術はなく、ただうーうーと、うめくことしかできない。
お父さんは夏にできた膿を拭うより冬の肌の軋みの方が見ていてつらいらしい。前者は自分で膿をぬぐってやることができて、目に見えてそして行動として何かやったつもりになれるからいいのかもしれない。
お父さんはじつに甲斐甲斐しく俺の世話を焼く。この1%でも俺の子供時代にしてくれていたらこんなことにはなってないはずなんだけど、後悔先に立たず。
お父さんの罪であり、個性社会の膿であり、お父さんの後悔そのものである俺。ほんとはそんなふうに生まれてきたはずじゃなくて、焦凍とは性能が違うだけでSSRだったはずなんだよ。そうじゃなきゃ、あんなに焦凍やお父さんのことを追い詰めることはできなかっただろ。
数々のifをかいくぐって、俺は今お父さんの負債としてこの家の畳のシミの範囲を広げることしかできない。
どこで間違った?
何がいけなかった。
一緒に考えて、手を取り合って答えを出そう。この奇跡みたいな時間を使ってさ。俺のこと見てくれるんでしょ? それってほんとに、ただ見るだけの見る? 見て、聞いて、答えてくれる見るじゃなくて? 熱で風の音がして、よく聞こえないんだ……
お題:耳 #カップリング #ヒロアカ #荼炎 #燈炎
お題:耳 #カップリング #ヒロアカ #荼炎 #燈炎
水の中で聞く人の声みたいに、どこかぼんやりとした音が耳に届く。聞こえるからと言って返事をするだけの声帯は焼け落ちてしまっているので、目の動きで文字入力ができる機械でお父さんと意思疎通をする。
とはいえ細かいニュアンスまでは伝えきれない。そんな苛立ちをぶつけようにも身体はどこも動かない。
身体中の水分が入れても入れても蒸発するのに、お父さんは俺の胃腸につながる管に水を切らさないようにどんなに遅い夜中だって欠かさず点検している。そんなこともうしなくていいよ、無駄だよって言ってもいいんだ、って言って俺の世話を焼いてお父さん自身がが気持ちよくなってるのをみたくないのにそれを伝えられず俺は横たわることしかできない。
なんていうかこう、俺が無駄だからやめろって言っても俺のために何かしてくれるのがうれしくないワケじゃない。なんだけど、お父さんが俺を見る目が将来楽しみな息子、じゃなくて自分が世話をしなくては弱って死んでしまう可哀想な息子、になってるのが嫌なんだよな。
ああ、あの戦いで死ねればよかった。こんな無様を晒すぐらいなら。
水の中で聞く人の声みたいに、どこかぼんやりとした音が耳に届く。聞こえるからと言って返事をするだけの声帯は焼け落ちてしまっているので、目の動きで文字入力ができる機械でお父さんと意思疎通をする。
とはいえ細かいニュアンスまでは伝えきれない。そんな苛立ちをぶつけようにも身体はどこも動かない。
身体中の水分が入れても入れても蒸発するのに、お父さんは俺の胃腸につながる管に水を切らさないようにどんなに遅い夜中だって欠かさず点検している。そんなこともうしなくていいよ、無駄だよって言ってもいいんだ、って言って俺の世話を焼いてお父さん自身がが気持ちよくなってるのをみたくないのにそれを伝えられず俺は横たわることしかできない。
なんていうかこう、俺が無駄だからやめろって言っても俺のために何かしてくれるのがうれしくないワケじゃない。なんだけど、お父さんが俺を見る目が将来楽しみな息子、じゃなくて自分が世話をしなくては弱って死んでしまう可哀想な息子、になってるのが嫌なんだよな。
ああ、あの戦いで死ねればよかった。こんな無様を晒すぐらいなら。
お題:はさみ #ヒロアカ が#カップリング #荼炎 #燈炎
お題:はさみ #ヒロアカ が#カップリング #荼炎 #燈炎
すーっと銀色の刃が俺を包む何重にもなった包帯を裂いてゆく。
もう長く持たない俺のために、訪問看護の人が来てくれている。お父さんは何か言ってるみたいだけどジージーと耳鳴りがするだけで何も聞こえない。でも触れ方でわかる。こわごわと俺がいつ気が変わってここを火の海にしてしまわないかと触れる方が訪問看護師さん。で、素人のくせに扱いがぶきっちょで、俺の皮膚がずるりと剥けてしまったときにびくっ、と震えるのがお父さん。お母さんは、ひんやりとしてるから一番よくわかる。
こんなになってまで、弱く守られるだけの俺に存在価値なんてあるのかな。
少なくとも俺自身は今の俺のことものすごくみじめだと思う。お父さんは知ってか知らずか、俺が暑いと感じてほんの少し身じろぎをしただけで氷枕をあててくれている。こんなになるまでお父さんは俺のことを見なかったんだと思うと涙が出そうになるけど、こんなコゲコゲになってて涙なんか出るわけなじゃん。
すーっと銀色の刃が俺を包む何重にもなった包帯を裂いてゆく。
もう長く持たない俺のために、訪問看護の人が来てくれている。お父さんは何か言ってるみたいだけどジージーと耳鳴りがするだけで何も聞こえない。でも触れ方でわかる。こわごわと俺がいつ気が変わってここを火の海にしてしまわないかと触れる方が訪問看護師さん。で、素人のくせに扱いがぶきっちょで、俺の皮膚がずるりと剥けてしまったときにびくっ、と震えるのがお父さん。お母さんは、ひんやりとしてるから一番よくわかる。
こんなになってまで、弱く守られるだけの俺に存在価値なんてあるのかな。
少なくとも俺自身は今の俺のことものすごくみじめだと思う。お父さんは知ってか知らずか、俺が暑いと感じてほんの少し身じろぎをしただけで氷枕をあててくれている。こんなになるまでお父さんは俺のことを見なかったんだと思うと涙が出そうになるけど、こんなコゲコゲになってて涙なんか出るわけなじゃん。
ifのない世界 #ヒロアカ #カップリング #荼炎 #燈炎
ifのない世界 #ヒロアカ #カップリング #荼炎 #燈炎
僕の名前は、轟燈矢。
お父さんと、お母さんと、僕の三人暮らし。仲の良いお父さんとお母さん、そしてその二人の唯一の宝である俺。何も欠けない幸せ。プロヒーローであるお父さんは過保護なくらい僕を気にしていて、ちょっと鬱陶しいくらい……
だいたいわかってくるだよ。
自分が見る夢の傾向が。
あれだけのことをされていながら、俺はいつだってお父さんに必要とされたいと心のどこかで願っている。俺の個性に満足して次のガチャを回さないで、俺の性能が気に食わなかったからってボックスに閉じ込めないでと俺の中のかわいそうな子供が泣いている。俺はもう泣いてやれないから、他の方法で感情を表すしかない。例えば怒り。
俺はこうして人を理不尽に焼いていれば、いつかお父さんが俺のこと見つけれくれるんじゃないかって思っていた。
でも、いつからか期待は俺を苦しめるだけだとわかったので俺は俺のために人を殺すことにした。俺が強くなったと、俺の火力がより一層強力になったと証明するための試験紙としての、殺し。
だから、捕まって人を殺したことへの謝罪をして欲しそうな時はどうしたらいいかわからなかった。悲しそうな顔をして、謝罪の言葉を並べたら幾分スッキリしたんだろうか。
でもでも、俺が殺した人たちにお父さんがひどい中傷を受けていると聞いたときには、俺がしてきたことは結果的にお父さんを苛んでいるかと思うと目的を達成していると言えるのかもしれない。
どんなやり方だったとしても、結果への道をあきらめない。そう、だって俺、努力《エンデヴァー》の息子だし。ね。
僕の名前は、轟燈矢。
お父さんと、お母さんと、僕の三人暮らし。仲の良いお父さんとお母さん、そしてその二人の唯一の宝である俺。何も欠けない幸せ。プロヒーローであるお父さんは過保護なくらい僕を気にしていて、ちょっと鬱陶しいくらい……
だいたいわかってくるだよ。
自分が見る夢の傾向が。
あれだけのことをされていながら、俺はいつだってお父さんに必要とされたいと心のどこかで願っている。俺の個性に満足して次のガチャを回さないで、俺の性能が気に食わなかったからってボックスに閉じ込めないでと俺の中のかわいそうな子供が泣いている。俺はもう泣いてやれないから、他の方法で感情を表すしかない。例えば怒り。
俺はこうして人を理不尽に焼いていれば、いつかお父さんが俺のこと見つけれくれるんじゃないかって思っていた。
でも、いつからか期待は俺を苦しめるだけだとわかったので俺は俺のために人を殺すことにした。俺が強くなったと、俺の火力がより一層強力になったと証明するための試験紙としての、殺し。
だから、捕まって人を殺したことへの謝罪をして欲しそうな時はどうしたらいいかわからなかった。悲しそうな顔をして、謝罪の言葉を並べたら幾分スッキリしたんだろうか。
でもでも、俺が殺した人たちにお父さんがひどい中傷を受けていると聞いたときには、俺がしてきたことは結果的にお父さんを苛んでいるかと思うと目的を達成していると言えるのかもしれない。
どんなやり方だったとしても、結果への道をあきらめない。そう、だって俺、努力《エンデヴァー》の息子だし。ね。
檸檬(レモン)、そして絆 #ヒロアカ #カップリング #荼炎 #荼炎 #燈炎
檸檬(レモン)、そして絆 #ヒロアカ #カップリング #荼炎 #荼炎 #燈炎
高村光太郎「智恵子抄」
梶井基次郎「檸檬」
をうっすらオマージュしてます
誰もが口々に自らの息子の死を願うというなら、親である俺に何がしてやれるだろう。何かしてやる、という仮定からして間違っていてしてやるのではなく、しなければならないのだと思う。子の罪は親が雪ぐ。世間からしてみれば当たり前のことだが、胃を苛んでやまない。燈矢のことが面倒になったわけではない。もちろんそんなことはあり得ない。あの焼け野原になった小山とその裾野を幾度歩き、名前を呼んでも答えなかった子がどんな形であれ戻ったのだから、うれしいにきまっている。
新しい家に夏雄と冬美、そして焦凍、冷を住まわせて、この二人で暮らすには広すぎる日本家屋に燈矢と二人で住んでいる。
燈矢は意志の強さで今まで体を支えていたようなものだというのが医師の見解で、こうして上半身を上げて本を読むことができるということが奇跡だという。何度も奇跡を乗り越えて、燈矢は三度目の冬を迎える。
荼毘と名乗り罪なき人を焼き殺した燈矢は、その頃の粗暴な言動をどこへやったのか、記憶の中の燈矢が穏やかに成長すればこのようになるであろうと想定した通りの優しげな、棘のない青年となっている。焦凍が来るとそうもいかないらしいが、想像がつかない。
燈矢は本を貪るように読んでいる。特段好みはないらしく、書店で平積みになっているものを買って与えたら特段何も言わずに黙々と読んでいる。本が好きな冬美と話が合うらしく、冬美の本を貸すこともあるという。けれど個性の調整が前ほどうまく行かず、冬美ちゃんの本を燃やしてしまうのは嫌だから、お父さんが買って欲しいと言われた。そのくらいならいくらでも買ってやる。あさましいことだが、それで少し救われた気になっていた。
冬美が連れてきた婚約者には、燈矢さんのこともありますし、疎遠になるかと思いますと初対面で言われてしまう始末だった。婚約者からしてみれば、近親者に人殺しがいるという時点でマイナスなのだろうけれど、自分が犯した罪の重さを再度確認させられているようで、胃がじわじわと苛んだ。生涯償い続けるといえば威勢がいいが、そうもいかない。真綿で締められるような苦しみとはこのようなことを言うのだと思う。胃薬は手放せないものとなったり、食事が喉を通らなくなり、以前のような力も出せない。片手がないぶん不自由も増えた。いつしか、人生の選択肢に引退と死がよぎるようになってきた。今となっては逃げだとか、錯乱していると考えることができるが、当時はそのような考えには至らなかった。そのうちどちらが魅力的に映ったかといえば、死の方だった。
夜中、喉の渇きを覚えて台所に立つと、何かを引きずるような音を聞いた。燈矢だった。
「どうした、こんな夜遅くに。歩けるようになったのか」
答えはなかった。正確には声帯まで焼けてしまっているため声が出ないという。器用にスマホで文字を入力して、薄ぼんやり光る画面を見せてきた。老眼が進んできた目をどうにか合わせて、画面を読む。
『夏くんが都合つく土日に、歩く練習をしてる』
「夏が? そうか、よかった」
『お父さん、レモンが食べたい』
本を欲する以外に、燈矢と再会してからはじめてのおねだりだった。深夜二時。やっている店といえばコンビニしかないが、飲み屋街のコンビニには酒に入れるためのレモンが売っていると聞いたことがある。燈矢がいままで俺にねだったのは修行だけだった。家族旅行も、流行りのおもちゃも欲しがらず友達の一人もつくらずに修行に明け暮れた。そんな燈矢の願い、叶えてないわけにはいかなかった。
コートを片手なしで着るのにも慣れており、マフラーを巻いて寒風吹き荒ぶ街に出た。しんしんと冷える冬空は星に満ちており、そういえば冬美が生まれたときもこんな寒い日だったと思い返した。
レモンは、と聞くともう無いですね、と言われたりうちには置いてないですと言われたり。燈矢がやっと心を許し、してくれたおねだりを早く叶えてやりたいと思うのは親の性だろうか、それとも罪滅ぼしだろうか。五件目でやっとひとつ、つやりとまぶしく蛍光灯の光を弾くレモンを買うことができた。片手で収まる果実を潰さないようにポケットに入れ、店を出た。現金で買い物をする人は年々減っているらしく、店内で人を探してやっと見つけた店員が面倒そうに会計をしてくれた。
『遅い』
「ああ、悪い燈矢……なかなか見つからなくてな。すぐに洗ってくるから、待ってろ。切ってやろうか?」
『いい』
俺が洗ってきたレモンを受け取るや否や、その白い歯がさくりとその鮮やかな黄色を穿った。燈矢は顔を顰めてひとつ咳をすると、もう一口齧った。
『お父さんも』
そう言って歯型がならぶ皮に、思い切って歯を立てた。燈矢が顔を顰めたとおり、酸味が味蕾をとおして脳に届く。
「酸っぱいな」
『お母さんがくれたレモン味の飴、美味しかったからレモンも食べたくなってさ。ありがとう』
それだけ残し、燈矢は歯を立てては顔を顰めを繰り返しながら寝室に戻っていった。
緊張がとけたのか、俺はほっと息をついた。
それからしばらくして、燈矢は帰らぬ人となった。世間は罰を受けずに死んでしまったと非難轟々だったが、燈矢はもう十分苦しんだ。ただしくは俺が苦しませたのだが、燈矢が受けるべきだった苦しみは俺が代わりに苦しむことで、世間には許しを乞い続けることにした。
親子の絆など、おこがましいことだが俺と燈矢に残った絆とはこの罪であり、罰であるのだと思う。他の親子がもつようなが持つようなうつくしい形をしていなくても、これこそが死がふたりを分つとも絶えることのない絆なのだと解釈する。
さよなら燈矢、もう少しだけ待っていてくれと墓石を撫でながら独りごつ。そんな石になってからじゃなくて、生きている間にこうして頭を撫でてやればよかったと後悔するが、燈矢はきっと地獄に下る俺を待っていてくれるような気がする。その時でも遅くはないだろう。春の兆しを見せる寒空を見上げ、レモンの果実とレモン味の飴を残して墓を後にした。
2022/7
高村光太郎「智恵子抄」
梶井基次郎「檸檬」
をうっすらオマージュしてます
誰もが口々に自らの息子の死を願うというなら、親である俺に何がしてやれるだろう。何かしてやる、という仮定からして間違っていてしてやるのではなく、しなければならないのだと思う。子の罪は親が雪ぐ。世間からしてみれば当たり前のことだが、胃を苛んでやまない。燈矢のことが面倒になったわけではない。もちろんそんなことはあり得ない。あの焼け野原になった小山とその裾野を幾度歩き、名前を呼んでも答えなかった子がどんな形であれ戻ったのだから、うれしいにきまっている。
新しい家に夏雄と冬美、そして焦凍、冷を住まわせて、この二人で暮らすには広すぎる日本家屋に燈矢と二人で住んでいる。
燈矢は意志の強さで今まで体を支えていたようなものだというのが医師の見解で、こうして上半身を上げて本を読むことができるということが奇跡だという。何度も奇跡を乗り越えて、燈矢は三度目の冬を迎える。
荼毘と名乗り罪なき人を焼き殺した燈矢は、その頃の粗暴な言動をどこへやったのか、記憶の中の燈矢が穏やかに成長すればこのようになるであろうと想定した通りの優しげな、棘のない青年となっている。焦凍が来るとそうもいかないらしいが、想像がつかない。
燈矢は本を貪るように読んでいる。特段好みはないらしく、書店で平積みになっているものを買って与えたら特段何も言わずに黙々と読んでいる。本が好きな冬美と話が合うらしく、冬美の本を貸すこともあるという。けれど個性の調整が前ほどうまく行かず、冬美ちゃんの本を燃やしてしまうのは嫌だから、お父さんが買って欲しいと言われた。そのくらいならいくらでも買ってやる。あさましいことだが、それで少し救われた気になっていた。
冬美が連れてきた婚約者には、燈矢さんのこともありますし、疎遠になるかと思いますと初対面で言われてしまう始末だった。婚約者からしてみれば、近親者に人殺しがいるという時点でマイナスなのだろうけれど、自分が犯した罪の重さを再度確認させられているようで、胃がじわじわと苛んだ。生涯償い続けるといえば威勢がいいが、そうもいかない。真綿で締められるような苦しみとはこのようなことを言うのだと思う。胃薬は手放せないものとなったり、食事が喉を通らなくなり、以前のような力も出せない。片手がないぶん不自由も増えた。いつしか、人生の選択肢に引退と死がよぎるようになってきた。今となっては逃げだとか、錯乱していると考えることができるが、当時はそのような考えには至らなかった。そのうちどちらが魅力的に映ったかといえば、死の方だった。
夜中、喉の渇きを覚えて台所に立つと、何かを引きずるような音を聞いた。燈矢だった。
「どうした、こんな夜遅くに。歩けるようになったのか」
答えはなかった。正確には声帯まで焼けてしまっているため声が出ないという。器用にスマホで文字を入力して、薄ぼんやり光る画面を見せてきた。老眼が進んできた目をどうにか合わせて、画面を読む。
『夏くんが都合つく土日に、歩く練習をしてる』
「夏が? そうか、よかった」
『お父さん、レモンが食べたい』
本を欲する以外に、燈矢と再会してからはじめてのおねだりだった。深夜二時。やっている店といえばコンビニしかないが、飲み屋街のコンビニには酒に入れるためのレモンが売っていると聞いたことがある。燈矢がいままで俺にねだったのは修行だけだった。家族旅行も、流行りのおもちゃも欲しがらず友達の一人もつくらずに修行に明け暮れた。そんな燈矢の願い、叶えてないわけにはいかなかった。
コートを片手なしで着るのにも慣れており、マフラーを巻いて寒風吹き荒ぶ街に出た。しんしんと冷える冬空は星に満ちており、そういえば冬美が生まれたときもこんな寒い日だったと思い返した。
レモンは、と聞くともう無いですね、と言われたりうちには置いてないですと言われたり。燈矢がやっと心を許し、してくれたおねだりを早く叶えてやりたいと思うのは親の性だろうか、それとも罪滅ぼしだろうか。五件目でやっとひとつ、つやりとまぶしく蛍光灯の光を弾くレモンを買うことができた。片手で収まる果実を潰さないようにポケットに入れ、店を出た。現金で買い物をする人は年々減っているらしく、店内で人を探してやっと見つけた店員が面倒そうに会計をしてくれた。
『遅い』
「ああ、悪い燈矢……なかなか見つからなくてな。すぐに洗ってくるから、待ってろ。切ってやろうか?」
『いい』
俺が洗ってきたレモンを受け取るや否や、その白い歯がさくりとその鮮やかな黄色を穿った。燈矢は顔を顰めてひとつ咳をすると、もう一口齧った。
『お父さんも』
そう言って歯型がならぶ皮に、思い切って歯を立てた。燈矢が顔を顰めたとおり、酸味が味蕾をとおして脳に届く。
「酸っぱいな」
『お母さんがくれたレモン味の飴、美味しかったからレモンも食べたくなってさ。ありがとう』
それだけ残し、燈矢は歯を立てては顔を顰めを繰り返しながら寝室に戻っていった。
緊張がとけたのか、俺はほっと息をついた。
それからしばらくして、燈矢は帰らぬ人となった。世間は罰を受けずに死んでしまったと非難轟々だったが、燈矢はもう十分苦しんだ。ただしくは俺が苦しませたのだが、燈矢が受けるべきだった苦しみは俺が代わりに苦しむことで、世間には許しを乞い続けることにした。
親子の絆など、おこがましいことだが俺と燈矢に残った絆とはこの罪であり、罰であるのだと思う。他の親子がもつようなが持つようなうつくしい形をしていなくても、これこそが死がふたりを分つとも絶えることのない絆なのだと解釈する。
さよなら燈矢、もう少しだけ待っていてくれと墓石を撫でながら独りごつ。そんな石になってからじゃなくて、生きている間にこうして頭を撫でてやればよかったと後悔するが、燈矢はきっと地獄に下る俺を待っていてくれるような気がする。その時でも遅くはないだろう。春の兆しを見せる寒空を見上げ、レモンの果実とレモン味の飴を残して墓を後にした。
2022/7
天より高く海より深い愛 #ヒロアカ #カップリング #荼炎 #燈炎
天より高く海より深い愛 #ヒロアカ #カップリング #荼炎 #燈炎
夏は燈矢の瑕から膿が止まらない。
時には肉が縫い目から剥がれて落ちていることすらある。固形物を食べているところを見たことがない。さまざまな要因から、燈矢はもう長くないということを思い知らされる。燈矢もそれがわかっているらしく、刑罰の一種として個性を抑制させる薬をわざと飲まずにおいて、俺を焼き殺そうとする。
一度憎んだ父親が甲斐甲斐しく介護をするのは嫌なのだろう。けれど冷や冬美、夏雄や焦凍にも危害を加えてしまったらそれこそ取り返しがつかない。だからこうして俺の命だけで勘弁してもらおうという腹だ。
そんな浅はかな計略はとっくに見抜かれているらしく、燈矢は俺がどれだけ献身的に世話をしようと、話しかけようとも反応は剣呑なものだった。
「お父さん、俺が早く死ねばいいって思ってるだろ」
「そんなこと思わない。燈矢、俺を信じろ」
「信じろ? 信じて、捨てただろ」
「捨てたわけじゃ」
「結果的に捨ててんの。焦凍が生まれるまでに生んだ命すべてに謝れ」
「燈矢、俺は」
「うるせえッ!!」
罵声ともに、蒼炎が上がる。燈矢の居室はどれだけ塗り直しても焦げが絶えることはない。最初こそ塗り直していたが、有機溶剤に引火してからはそのままにしている。いっそこの炎に巻かれてしまったら燈矢は気分がスッキリするだろうかなんて考えて炎に触れようとしたら、ふっ、と炎は消えた。
「死ぬぞ」
「……」
「お父さん、お前は生きて償い続けないといけない。死ぬなんて、俺が許さない。俺が死んでも、死ぬな。後追いなんかして楽になろうとするなよ」
「わかっている、わかっているが……」
「どうしても辛くて、生きていたくないなら……その時は俺が殺してやるよ」
燈矢は、修行をせがんで俺の手を引いていた時と同じ笑顔でそう言った。
2022/7/29
夏は燈矢の瑕から膿が止まらない。
時には肉が縫い目から剥がれて落ちていることすらある。固形物を食べているところを見たことがない。さまざまな要因から、燈矢はもう長くないということを思い知らされる。燈矢もそれがわかっているらしく、刑罰の一種として個性を抑制させる薬をわざと飲まずにおいて、俺を焼き殺そうとする。
一度憎んだ父親が甲斐甲斐しく介護をするのは嫌なのだろう。けれど冷や冬美、夏雄や焦凍にも危害を加えてしまったらそれこそ取り返しがつかない。だからこうして俺の命だけで勘弁してもらおうという腹だ。
そんな浅はかな計略はとっくに見抜かれているらしく、燈矢は俺がどれだけ献身的に世話をしようと、話しかけようとも反応は剣呑なものだった。
「お父さん、俺が早く死ねばいいって思ってるだろ」
「そんなこと思わない。燈矢、俺を信じろ」
「信じろ? 信じて、捨てただろ」
「捨てたわけじゃ」
「結果的に捨ててんの。焦凍が生まれるまでに生んだ命すべてに謝れ」
「燈矢、俺は」
「うるせえッ!!」
罵声ともに、蒼炎が上がる。燈矢の居室はどれだけ塗り直しても焦げが絶えることはない。最初こそ塗り直していたが、有機溶剤に引火してからはそのままにしている。いっそこの炎に巻かれてしまったら燈矢は気分がスッキリするだろうかなんて考えて炎に触れようとしたら、ふっ、と炎は消えた。
「死ぬぞ」
「……」
「お父さん、お前は生きて償い続けないといけない。死ぬなんて、俺が許さない。俺が死んでも、死ぬな。後追いなんかして楽になろうとするなよ」
「わかっている、わかっているが……」
「どうしても辛くて、生きていたくないなら……その時は俺が殺してやるよ」
燈矢は、修行をせがんで俺の手を引いていた時と同じ笑顔でそう言った。
2022/7/29
DABI NEVER DIE! #ヒロアカ #カップリング #荼炎 #燈炎
DABI NEVER DIE! #ヒロアカ #カップリング #荼炎 #燈炎
人はいつ死ぬのか。
お父さんにたんまりかけたガソリンの臭さに辟易しながらも、俺はそんなことを考えた。病院には、たくさんの死にかけた人間たちのうめきで満たされていて、そのどれもが生きてはいなかった。俺もその一員となってうめきの波間に揺られていたんだけど、俺はこんなふうに死にたくないと思って一念発起して今は思い出の瀬古渡にいる。
俺はそうだなあ……俺の次の子ガチャが回された時、お母さんが次の子供を妊娠したと知った時死んでしまったんだと思う。俺を見限って俺があこがれた世界から遠ざけられなんの面白みもない人生を歩めといわれた時に……そして……焦凍が生まれて俺の息の根は止まってしまった。
お父さんはいつ死ぬのか。
俺が今少しでも火を出してしまえばお父さんは火だるまになって死んでしまうんだけど、そうじゃない。お父さんは俺が殺した。荼毘が全世界に向けてお父さんの非道を晒してしまったことで、ヒーローとしてのお父さんは死んでしまった。
俺が殺してしまったのだと気づいた時、感じていたのは脳を突くよろこびと虚しさだった。守るはずの民衆から唾はかれて罵声を浴びせられ、ザマアミロ、俺を蔑ろにするからそんな目に遭うんだと思ったけどよろこびは風船がしぼんでいくみたいに小さくなっていった。俺はお父さんをどうしたかったんだろう。一人で修行した成果を見て欲しかったのかな。お父さんが焦凍じゃなくて俺を選んで教育し直すっていう夢はたくさん見たけど、それが俺の深層心理だなんて信じたくない。
ガソリンが鼻に入ってしまったらしくむせているけど口はガムテープで塞がっていて苦しそうにもぞもぞしているお父さん。情けなくて、かわいそう。俺はお父さんのでかいケツを蹴り飛ばして天を仰いだ。月のないいい夜だ。さぞお父さんを燃やした炎がうつくしく映えるだろう。
しばらく、酒を飲みながらガソリンまみれのお父さんを眺めていた。
抵抗するそぶりは見せなかった。黙って横になって、まるで点火を待っているかのようだった。憎しみで、怒りでいっぱいだった俺なら迷いなくつけただろうけど、今の俺はなんだか頭がぼんやり霧がかかったようにまとまらない。
死んでしまったらこの世で受ける罰は全て放り投げて逝けると思っているのだろうか。そうだったら、悔しい。お父さんの罪の具現である俺が生きてるのに、罪を犯した張本人が死んで楽になってどうするんだよ。俺は思い直して公園の水道までお父さんを引きずっていき、石鹸で雑に洗い流した。
「許してくれるのか……?」
「んなわけねーだろボケが。生きて罪をすすげ」
「復讐を果たした方が燈矢の気が晴れるかと思ったが」
「俺は、今の気分はそうじゃなかった。今後殺したくなった時は殺されて」
「……わかった」
「生きてる方が苦しいことだってあるから。俺はそれを見て気を晴らすよ」
「そうか……」
「今日は帰ろう」
そう言って、お父さんお抱えの運転手さんに来てもらって家に帰った。ガソリン臭いお父さんを車に迎え入れても何も言及しないあたりプロだなあって思う。びしょ濡れで何処か虚な目をして外を見ているお父さんが可愛くって、ほんとゾクゾクしちゃった。サイコーすぎる!もっとやろう!
2022/11/6
人はいつ死ぬのか。
お父さんにたんまりかけたガソリンの臭さに辟易しながらも、俺はそんなことを考えた。病院には、たくさんの死にかけた人間たちのうめきで満たされていて、そのどれもが生きてはいなかった。俺もその一員となってうめきの波間に揺られていたんだけど、俺はこんなふうに死にたくないと思って一念発起して今は思い出の瀬古渡にいる。
俺はそうだなあ……俺の次の子ガチャが回された時、お母さんが次の子供を妊娠したと知った時死んでしまったんだと思う。俺を見限って俺があこがれた世界から遠ざけられなんの面白みもない人生を歩めといわれた時に……そして……焦凍が生まれて俺の息の根は止まってしまった。
お父さんはいつ死ぬのか。
俺が今少しでも火を出してしまえばお父さんは火だるまになって死んでしまうんだけど、そうじゃない。お父さんは俺が殺した。荼毘が全世界に向けてお父さんの非道を晒してしまったことで、ヒーローとしてのお父さんは死んでしまった。
俺が殺してしまったのだと気づいた時、感じていたのは脳を突くよろこびと虚しさだった。守るはずの民衆から唾はかれて罵声を浴びせられ、ザマアミロ、俺を蔑ろにするからそんな目に遭うんだと思ったけどよろこびは風船がしぼんでいくみたいに小さくなっていった。俺はお父さんをどうしたかったんだろう。一人で修行した成果を見て欲しかったのかな。お父さんが焦凍じゃなくて俺を選んで教育し直すっていう夢はたくさん見たけど、それが俺の深層心理だなんて信じたくない。
ガソリンが鼻に入ってしまったらしくむせているけど口はガムテープで塞がっていて苦しそうにもぞもぞしているお父さん。情けなくて、かわいそう。俺はお父さんのでかいケツを蹴り飛ばして天を仰いだ。月のないいい夜だ。さぞお父さんを燃やした炎がうつくしく映えるだろう。
しばらく、酒を飲みながらガソリンまみれのお父さんを眺めていた。
抵抗するそぶりは見せなかった。黙って横になって、まるで点火を待っているかのようだった。憎しみで、怒りでいっぱいだった俺なら迷いなくつけただろうけど、今の俺はなんだか頭がぼんやり霧がかかったようにまとまらない。
死んでしまったらこの世で受ける罰は全て放り投げて逝けると思っているのだろうか。そうだったら、悔しい。お父さんの罪の具現である俺が生きてるのに、罪を犯した張本人が死んで楽になってどうするんだよ。俺は思い直して公園の水道までお父さんを引きずっていき、石鹸で雑に洗い流した。
「許してくれるのか……?」
「んなわけねーだろボケが。生きて罪をすすげ」
「復讐を果たした方が燈矢の気が晴れるかと思ったが」
「俺は、今の気分はそうじゃなかった。今後殺したくなった時は殺されて」
「……わかった」
「生きてる方が苦しいことだってあるから。俺はそれを見て気を晴らすよ」
「そうか……」
「今日は帰ろう」
そう言って、お父さんお抱えの運転手さんに来てもらって家に帰った。ガソリン臭いお父さんを車に迎え入れても何も言及しないあたりプロだなあって思う。びしょ濡れで何処か虚な目をして外を見ているお父さんが可愛くって、ほんとゾクゾクしちゃった。サイコーすぎる!もっとやろう!
2022/11/6