お題:もしも #カップリング #ヒロアカ #荼炎 #燈炎

 もしも、もしも俺がお父さんの個性だけを受け継いでお父さんを超える炎を出し続けてもなんの支障もないからだに生まれていたら、どんな人生を送っただろう。
 
 
 高校なんか行かなくてもお父さんの右腕として活躍していたかもしれない。
 でもお父さんは高校は行った方がいいと、俺に興味を持っているから進路に口を出してきたかもしれない。俺は仕方ないなぁなんて言って、雄英でアオハルしたりできたのかもしれない。
 仲間と切磋琢磨して、お父さんの過保護を嘆いてみせたりして、自分の才能に酔いしれるタイミングがあるかもしれない。
 
 ああ、俺は俺に生まれて良かったと、心から思えたかもしれない。
 
 
 ……そんな夢を見た日は本当に気分が悪い。心からそうであって欲しかった未来が決して手に入らないものであると何度でも思い知らないといけなくなる。そんな自分が可哀想で、ダサくて。
 
 もしも、なんて夢想は俺が叶えない限り現実にはならないんだよ。努力しないと、夢は現実にならないんだよ。……努力したって、叶わないことだってあるんだよ。生まれつきのことは、努力したって満足いかない結果になることの方が多い。そんなの俺が一番わかっているし、そのために俺が今できることを頑張っているのに俺の深層心理はそう思ってなくて、何の努力もしないでこう在れたら、と俺の脳に映し出す。残酷すぎて涙が出そうだ。
 
 ひとしきり毒づいたら、顔を洗って歩き出す。俺は、俺のやり方でお父さんに俺を認めさせる。夢見る乙女なんてやらねぇ。夢は見るけど、俺が俺の手で叶える。
 なんだか少年漫画の主人公みたいだ。友情努力勝利。友情は無ぇけど、努力と勝利はあるだろ。
 
 
 そんな鮮烈な復讐心を、いまだに思い出す。
 焼け爛れた身体を懸命に世話をするかつて俺がこうありたいと心から願った人。こうありたかったからこそ、もう何もできない俺の世話を焼くみたいなつまんねぇことやって欲しくなかった。本当に本当に、この人生は……言葉にならない虚しさに襲われる。
 
 
 もし、願いが叶うなら……戦いの中で死にたかった。たぶんあのまま家族を皆殺しにしてしまっていたら後悔しただろうけど、なんの価値もなくみじめったらしく排泄物を垂れ流すより全然ましだ。巨悪は去り、ハッピーエンドみたいな空気になってるのを見るのも嫌だ。


 もし、願いが、今からでも、叶うなら……
 すべてやり直して、俺が俺のやり方でヒーローに……
 それは無理か。俺はフツウに生きるしか道が用意されてなくて、俺はそう生きたいわけじゃなかったんだから。お父さんがあの時来てくれていたなら、まだ何か変わったかな。
 いや、そのもしもは叶わない。お父さんは、俺のところになんか来ない。行けなくて、じゃなくて行かなくて、なんだから。俺のお願いなんてとっくに聞いてもらえなかったんだよ。お父さんにとって、価値がなかったから。
 わかっているはずなのに、あまりにひどいやつを好きになってしまって苦しくて笑いが止まらない。お父さんは能天気に「燈矢、うれしいことがあったのか?」なんてニコニコしてるし。もう個性もないから何もできないけど、バカバカしくって逆に面白い。ひどいやつ。大嫌い。大嫌い。大嫌い。