さざなみが浚う夜 #FateGrandOrder #夢小説 #男夢主 #アルジュナ
「また泣いているのですか」
アルジュナが頭の上で溜息をついたのがわかる。呆れ、ではなく、自分と添い寝して何が不満なのか、と言わんばかりの自信からくるため息だ。
「英霊になるほどのすばらしいお方にはわかりませんよーだ」
「僻んだ子供ほどかわいくないものはないですね…………あなたからふっかけてきたのに勝手に悲観的になるのはおよしなさい」
「アルジュナきらい」
「なら離しなさい」
筋力Aクラスの彼に頭をはたかれると、アルジュナが思っている以上にやられた側は痛いのだと理解してほしい。現にばちん、ととってもいい音がした。
「……ごめん」
返事の代わりに頭が撫でられる。
こんな、いつかは役目を終えて消えていってしまう存在に入れ込んで、不毛すぎるということは自分が一番よく分かっている。けれどこんな立場に置かれて、誰とも深く心を結ぶことが不利益になる状態で、必要となればセックスをしなければならない。余りに惨めな役回りだ。
何かに縋らずにいままで自害せずにいれたとは思えない。
いうなれば俺は、人理焼却を阻止するために生きているのではない。
これは誰にも言ったことがないけれど、多分今俺は彼を、アルジュナを失いたくないがためにこの役割に甘んじている。
唯一人、俺のこの惨めな役を確かに惨めであると認め、半端な慰めをしようとしない。それだけがどんなに嬉しかったか。
俺がこの状況に感じている違和感を認めてくれる人がほかに居ただけで救われた。そうでもしないときっと気が狂っていただろう。彼が寝入り端に語る、真実とも虚構ともとれる話だけが楽しみだ。
「え?俺の話?」
「ええ、私ばかりが話していても飽きるでしょう」
「そんなことない、アルジュナの話おもしろいよ」
「私が飽きたのです」
「あっそう……」
そう言われても、彼に話して聞かせるほどの話があるだろうか。ここに来る前は、本当に平凡な人生だったのだ。
逡巡していると、アルジュナは本当に寝入る気らしく外套と手袋をはずしてサイドテーブルに置いた。
普段隠されているところが露わになるとどうしてこうも扇情的なのか。あわてて目を逸らしても、きっと彼は気づいている。俺がどんな気持ちでここに居るか。
「毎日学校に行って、帰って、塾に行って、将来はきっと大学に入るんだろうなって思ってた。で、将来どうなるかが何となく不安で、それだけ」
「それだけ、ということもないでしょう」
いちいち学校はどうとか説明する必要が無いので、いいシステムだと思う。生きた世界が違いすぎた二人をひとときの主従としてまとめ上げるとしたら随分と効率がよくなる。
だとしても彼には理解できないだろう。
日本人の平均寿命からしてみるとあまりに短い生を、瞬きのように生きた彼にはこうして流されるまま生き、滞留してはまた流れるという生き方が。
さすがに聖杯も、そんなところまではめんどうみてはくれないらしい。
「つまらなくはなかったよ、少なくとも、辛くなかった」
彼は極端に光が絞られた瞳で射抜くようにこちらを見つめている。ここでも彼は射手としての才能を遺憾なく発揮している。現に何とは言わないが既に撃ち抜かれて、無残にばらまいている。
「戻りたいですか」
「……ひどいこと言うね」
くつくつと彼の喉奥で磨り潰した嘲笑が零れた。
戻りたい。こんなつらいことはもう終わりにしたい。痛いのも、苦しいのも、嫌がられながらセックスするのも、訳の分からない生き物に食われかけるのも、自分犠牲が当たり前の人間たちのなかで一人、死が怖くてたまらないのも、全部終わりだ。
終わりにして。
けれどそんなことできやしないとわかっているから、彼はこうして俺の心に爪を立てて血が滲むのを見て楽しんでいる。
サーヴァントは、いずれ消える。きっとこの役目が終わる頃、彼は消え、英霊の座とやらで召喚を待つだけの存在に戻るだろう。英霊の記憶に齟齬があっては困るから、ここにいたことなんて全部忘れて。唯一覚えているのは俺一人。
そんなこと、願い下げだ。人理救済、とかかっこいいことを言っておいて俺一人酷い役回りの末に彼を失わないと終わらないなら―――――
「どうしたのです、珍しく怖い顔をして」
「え?」
かさついた指が俺の頬を撫でたのを理解したのはずいぶん経ってからだった。
「私の使命を見失ってくれるな、マスター」
「うん、そうだよね」
彼は別にここに俺の世話をしに来たわけじゃない。もっと大きなことを叶えるためにここに居る。わざわざ念押しされると、ちくりと胸が痛む。勝手に想って、勝手に傷ついて。こんなに苦しいのだから、これくらい許されてもいいのでは、と思う気持ちと、恥じ入るべきだ、という気持ちが交錯する。
考えるのがばかばかしくなって、布団をまくり上げて潜り込む。彼の態度は冷たいが、身体はぬくい。
勝っても負けても、いずれアルジュナは俺の元からいなくなり、アルジュナは俺の事を忘れる。俺はいつまでも捉われたままだ。あまりに損な役回りで笑みがこみあげて来る。
「大丈夫、君たち英霊の努力を無駄にしないように最大限努力する」
「いいでしょう」
その答えに満足したのか、彼は目を閉じ、眠りに入った。俺はひとり取り残されたまま、彼の貌を見つめている。
彼の貌、吐息、ぬくもり。感じ得るすべてのものを記憶に刻みつけておくよう、俺は眠りゆく頭をどうにか保ちつつ彼に触れないぎりぎりの距離に身体を横たえた。
文字通り、生き世界が違いすぎるのだ。出会ってしまったから今こんなにも予期する別れが苦しい。
もっと俺が大人だったら、先々を悲観せず、毎日毎日を刻みつけながら生きればいいとわかるのだけど、今は昏い水底に沈んでいるような気になる。もっと大人になったら、こんな変な人の想い方をしなくても済むのかな、と夢想し、迫ってきた眠気に素直に意識を引き渡した。
2017/7/1
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