みずかおちる #ダイヤの #カップリング #雅鳴


 夏場特有の厭味ったらしくじんわり纏わりつく湿った空気を、冷たい風が浚ってゆく。
「こりゃあ、雨が降るかもな」
 低く、耳に心地よく通る雅さんの声が俺の鼓膜を震わせて、俺の脳に伝わる。起こっているのはたったそれだけのことなんだけども、雅さんの声がとどく範囲に居れるってことと俺の感覚器官が雅さんをとらえて認識したことの証明にほかならない。
 よく雅さんが俺に説教するのを傍から見て親子みたい、なんてからわれることはあるけれど、俺が雅さんを庇護してくれるものへの親愛、そういう目で見たことはない。俺はもっとズルいこと考えてる。
 自覚したのは本当につい最近で、いつもの如く練習で疲れて雅さんの部屋でうとうとしてしまったとき。


 蛍光灯の明かりが眩しくて、眠いなら自分のベッドで寝ろよと言う雅さんの雅さんの腿にうつ伏せになった。あったかくて頼りになる先輩だったんだ。この時までは。いつもは俺がまとわりつこうが何しようがどこ吹く風で野球雑誌か歴史小説読んでいるのに、この時だけ俺の頬を、優しく撫でた。子供をあやすように優しく。
 そのときふと、何気なくそうぞうした。雅さんがいつか結婚して、子供が生まれたらこうやってあやすのかな、って。



 いままで俺が身を置いていた世界での常識だと、なにもおかしくはない。
 けれど俺は雅さんが誰か、知らない女に惚れて、セックスして子供を授かるということを脳が拒否した。
俺はそのどれもできない、できるはずがない。子供っぽい独占欲とは違う、もっと子供じみた感情だと思う。




「おい、どうした鳴」
「なぁんでもない、ちょっとぼんやりしてただけ」
「体調悪いなら引っ込んどけよ」
「大丈夫だって言ってるでしょ、もう、雅さんお母さんみたい」
 俺が雅さんの子供のお母さんになりたかった。子供に、お父さんうるさいって言われてる雅さん、見たかったな。ため息をついて口が減らないガキが……と苛立ちを隠そうとしない雅さんのことが好き、意外と子供っぽところある、完璧じゃない雅さんが好きだなんて一生言わないし悟らせないから、安心して。雅さん。