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けものみち #FateGrandOrder #夢小説 #男夢主 #ゲオルギウス

けものみち #FateGrandOrder #夢小説 #男夢主 #ゲオルギウス


 魔術の発端は、ヒトが抱くささやかな悪戯心や、あこがれのあの人が振り返ってほしい、自分とは別の人間に心を奪われてしまってにっちもさっちもいかなくなってしまった弱さを押し隠したい、なんていうささやかな願いなんじゃないかなと夢想する。

 そんな俺のしたたかな劣情を映し出した液体は、俺が知っている色の中で一番近い色は紺色だが、フラスコを傾けると水面が眩しいくらい鮮やかな赤に照る。
 俺は俺の魔術師としての才能なんて一切無いと思っていた。なんとなく便利な技術で、おまじないの域を出ないだろうと本気で思っていたし、知識がないながらも懸命に作ったもので、すてきなあの子がどんな顔が見せてくれるんだろう、なんてくらいにしか思っていなかった。そしてもしかしたら、俺のこの妙な体質の仲間が出来て、ともに歩んでくれるかもしれない……それは思い上がり過ぎじゃないか、いやでも彼は、普通の人間なんかとは違うから大丈夫、だなんて考えていた。

 人類史を紐解くと、思想というものは流れゆくものであると実感する。
 女性に関して言うと、今からは考えられないし、失礼だし配慮に欠けるどころの騒ぎじゃないとは思うが、女性そのものが堕落を誘う、楽園を追われた原罪の象徴だとみなしていた時代があった。
 男性を堕落させるから罪、という論理であるらしい。過去に存在した思想に関して現在から解き明かすとして仮定の域を超えることは無いが、随分な言いようだ。
 けれどその時代に生きた先人たちの考え方を根本から否定する気になれない。なんだかんだ言いながらも俺は人類が愛おしいのだと思う。迷い、間違えながらも前に進むことをやめない人類が。
 それじゃないとこんなに危ない、ストレスで胃が千切れ飛びそうなことできやしない。途中で自害しているだろう。

 だから、この薬を作ったのは単なる興味でもある。
 たとえば、その教えに殉じて命すら差し出した人間が、原罪そのものになったとしたらどうなるのか?

 泣き狂うのか、それとも新たな生、いや性を楽しむのか?

「マスター、ちょっと」
 例の薬を少しずつ投与して、五日目に差し掛かるかというときに声をかけられた。わくわくをどうにか押し込めて、努めて平静に、何?どうかした?と返事する。
「その、少し言いづらいことで」
「じゃあ、俺の部屋で話しましょう」

 自然に自室に連れ込めたこともうれしい。俺への警戒心がずいぶん薄れたことが伺える。無駄を完全にそぎ落としたこの無機質な部屋が今は華やいで見える。
「で、どうしました?」
「その……私もにわかに信じがたいことなのですが」
「はぁ」
 好青年ぶって、心底あなたを心配していますあなたの現在の命も守る主として、というふうに接してみせる。所在無さげにマントの端をいじるゲオルギウスにあったかいほうじ茶を淹れて渡す。一緒にきなこもちを添えて。
 不安定な丸椅子ではなく、ベッドの端に腰かけるように勧める。
 勧められるがままに俺の隣に座るゲオルギウスの顔を覗き込むと、言うか言うまいか迷っているように見える。
「言えないようなことですか?」
「それが……その」
 そりゃあ言えないよな。五日といったらそろそろ子宮の形成が終わり、膣の形成が終わり、膣口の形成が始まる頃だ。その前に乳房が形成されているはずだ。そりゃあ、もう無視できない。気のせいだと自分に言い聞かせるのも限界だろう。
「何でも言ってください、あなたの力になりたい」
 その言葉に心動かされたのか、固くひきむすばれた唇が解け、喉から引き絞られるように言葉がこぼれ出る。
「身体が、女に」
「えっ…と……それはどういう?」
 初めて聞きました、そんなことにわかに信じがたいと言わんばかりの表情を顔に貼り付け、内心では成功を喜ぶ幼児のように無邪気に笑い、ねぇ、すごいでしょう、私は何もできない単なる人の子ではありませんと自分の力量を誇示したくなる。それをどうにか抑え、鎧の上から身体を伺おうとする。

「やはり見てもらった方が早いだろう」
「えっ?」
 おそろしいほど複雑な鎧の留め金を外し始めた。元は男だからべつに恥ずかしがる必要は無いはずだが、今は女の身体をしているはずだから見てはいけないような気がして、目を伏せた。

「マスター」
 なんだか声も少し変わっている気がする。俺より先にキャスタークラスのサーヴァントに相談されていたらなにもかもが終わっていた。そうなっていないということは運命の女神や、もしかしたら彼が祈る神ですら俺の味方だったりして。
「その、シーツどけても大丈夫でしょうか」
 肌を見せることを、思想上忌避していたはずの時代から来た人だからひどく迷っているだろう。顔面は蒼白で、唇は紫色になってしまっている。
「ムリしないでください、ストレスの方が良くないです、きっと」
「いや、その、信じてもらいたいのです、本当にそうなってしまってしまったことを」
 震える手でシーツで包まれた傷だらけの身体を露わにする。
 先日風呂で見たときは立派な胸筋があったところの少し上側に、そこそこの大きさの乳房があった。
「あっ、本当にあるんですね……」
「これで信じてもらえただろうか」
「うん、ちょっと信じられなかったですが……」
 まじまじと眺めていると肌を隠されてしまった。あわてて目を逸らす。
「でも胸がちょっと変わっちゃっただけでしょう?ならそこまで支障ないんじゃ」
 唇を噛みしめて目を逸らされてしまった。それはそうだろう。もうそろそろ生理が始まってもいいくらいの時期だから体調もおかしくなってきているのだろう。少しかわいそうになってきて、横になってと言うと素直に従う。
「数日前から下腹部が痛くて」
 生理痛だろう。下腹部を温めるようにさすると大人しく受け入れられた。
「頭も痛いし身体も熱い」
 小さな湯たんぽを引っ張り出して、湯を用意する。横になった途端眠気が襲ってきたのだろう、瞼が落ちかけている。
 タオルにくるんだ湯たんぽをシーツに押し込んで、腹にあてると少しよくなるらしいのであててやる。眉間に刻まれた皺が少しだけ緩くなったような気がする。
「我慢できないくらい痛いなら痛み止めあげるよ」
「マスターは痛み止めを常用しているのですか?」
「うん、怪我したときとか我慢できないくらいときありますし」

 明かりを消して、少し寝たら?と言うと暗がりの中で頷いた衣擦れの音がした。表情は窺い知れないが沈痛な面持ちでこちらの反応を伺っているのだろう。
「大丈夫、俺は味方です、それに誰にも言いません。安心してください」
「ありがとう」
 掠れた声で言うものだから、英霊となるまで、英霊となってからも強く在った人だというのに急に庇護欲をくすぐられてしまった。痛むと言っていた腰のあたりを優しくなでる。
「こんなこと、主が許すはずがない」
「え?」
「罪の具現である女になるなんて」

 価値観が違う時代から来た人間なのだから、とどれだけ言い聞かせても、体中の血が端から凍っていくのがわかる。
 もしかしたら、この人が私と同じ状況―性が自分の意志に関わらず突然、前触れなく変わってしまう―になったら、縋るものがある人間ならば、こんな状況になってしまった私を救ってくれるかもしれない、と思っていた。
 俺は彼をなんだと思っていたのだろうか。人間より素晴らしい生き物だと言われているのだから、もしかしたら俺とは違う考え方で、この状況を撥ね退けてくれるかもしれないなんて考えていた。
 勝手に身体を、興味が向くままに変えておいて、自分の思ったとおりの反応を得ることができなかったからと失望をして。随分非道なマネをしたという自覚はある。
「じゃあ、その主に俺の事も助けてって言っておいてください」
「何故です……あなたは男性でしょう」
「今はそう見えますよね」
 俺は深くため息をついて、発言の意図がつかめずにいるゲオルギウスの腰を撫で続けたまま言葉を選んで話を戻す。
「堕落を誘う、あなたが言うところの原罪そのものに、自分の意志に関係なく、自分とは全く別の女になってしまう、ということです」
 意味が解らない、と言う目で見てくるゲオルギウスに触れる手は今は筋張っているが、自らの意志に関わらず、オレンジ色の髪と琥珀色の瞳を持った女に変わるときがある。人格は一緒のままだ。そんないかれた状況でも、男から女に、見た目が全く変わったというのに変わらず「俺/私」を認識し、名前を呼ぶダ・ヴィンチちゃん、ドクター・ロマニ、本来一人のマスターに一人のみ召喚ができるはずのサーヴァントたち。それに、マシュ。
 サーヴァントをその身を貸出したとはいえ、カルデアがこうなってしまう前から俺の事を知っているはずの俺の後輩。そのマシュですら俺/私の事を認識できていない。
「言ってる意味、わからないですよね……ごめんなさい」
 何に対しての謝罪だろう。きっと範囲が広すぎて自分でも収拾がつかない範囲への謝罪。ゲオルギウスは上掛けが落ちてくるのも厭わず手を伸ばし、頭を撫でてくれる。そのまま倒れ込むように隣に横になると、そのまま抱きしめてくれる。押し付けられた胸はさきほどより少し大きくなったような気がする。もちろん胸筋ではない。温かく、やわらかな脂肪だ。
「肌を晒すなどと、昔は考えられなかったのですが」
 ふふ、と小さく頭の上で笑ったのがわかった。

「お辛かったことでしょう」
 お前に何がわかる、偉そうに、そうやって一歩上の立場から見下ろして、あなたが誠心誠意、文字通り全て捧げた存在が貴方に何をしてくれた、などと口汚くののしりたかったが喉には嗚咽が張り付いて、そんな言葉でてきやしない。ただ彼の身体に残る傷跡に爪を立ててささやかに、目と鼻の先にある安らぎに抵抗する。
「時々、あの四十七人が冷凍保存されている部屋で一人嘆いていますね」
「なんでしってるんですか」
「子供の考えることくらい、大人はお見通しなのですよ、マスター」
 悔しくて堪らない。惨めったらしくて、腹立たしさすら感じる。ゲオルギウスの言うとおり、もう何もかも、人類史だなんだって全部投げたしたくなったらあそこに行っている。このなかの誰か一人でも奇跡的に起きだして、俺の代わりになってくれやしないかって泣いている。だれかにこんな役目押し付けて、どこかへ行ってしまいたいと嘆いている。
 できるだけサーヴァントの前では強い主人であろうとしている。そうでもしないと寝首をかかれやしないかと気が気でない。そんな努力が無駄だと笑われたような気になってしまう。普段ならこちらも、そうなんだ、と笑い飛ばせたようなことが妙に心がささくれ立つ。
「あんたなんか大嫌いだ」
「とおっしゃられますが、いささか抱きしめる力が強すぎるようですよ、マスター。少し苦しいです」
「ごめんなさい、好きです」
「ええ、私もです……マスター、言葉と行動が一致していませんが」
「ごめん、もう少しこのままでいさせてください」
 あなたが俺に言う好きと、俺があなたに言う好きの意味は違うと言ってもっともっと困らせてみたい、と思うだけにとどめておく。

 ◆◆◆
「これから数日、俺の部屋で寝起きしてください」
 よそ様の胸に顔をうずめている割には偉そうな物言いだが、そうでもしないと俺のちっぽけなプライドが守れない。
「どうしたのです、急に」
「治してあげます」
 自分でやっておいて治すもなにもないが、効果が早く切れるようにする薬には少し匂いがある。その時にバレてしまってはきっとカルデアじゅうの聖人たちに囲まれて人として歩むべき正当な道を説かれ、今度こそ俺の精神は音もなく壊れるのだろう。と予想がついている。
 強すぎる光は影を落とすことを知らない、自分がそう、強すぎる光であるからこそ影が見えない人たちばかりだから、自分の身体がおかしいからといって、他人も同じ状況に置こうとするなど、俺の卑小な考えなんて理解できない。それでも救うべき哀れな子羊のために懸命に「救って」みせようとするだろう。きっと俺の目の前にいる人もそうだ。

 他人に勝手に求めて、勝手に失望して。
 ときに双方向に求めあっていたら「恋が成就する」だなんて言う。俺が、そして彼が愛した人類はそうして命をつないできたかと思うと、少しだけ恐ろしい。そんな恐ろしく低い確率を踏み越えて人類はここまで命をつなげたのだ。
 恐ろしい、と感じるのは無理もないと思う。だってできなかったことは理解しようがない。残念ながら。人類すべてを愛して死んでいった人と、その人ただ一人を愛している俺。どうしたって違いすぎるじゃないか。
「目立たないように、布で押さえましょう」
「ええ、お願いします」
 包帯として使っていた、要らなくなった衣服を切り、縫い合わせて作った布をなるべく裸の胸を視界に入れないように、それでいて、極力俺の部屋に居てもらうものの、誰かに見た目で異変に気付かれないよう、豊満になりつつある胸を押しつぶすようにして布を巻いてゆく。
「マスター」
「どうかしましたか?」
「いえその、少し苦しいです」
「すみません、でも緩めると目立ってしまうので……」
「では、ここから出るときは布を締めていただく、ではいけませんか」
 少しの間逡巡し、それで構いませんと言って布をほどく。圧を失った脂肪はもとの大きさに戻り、ゲオルギウスは大きく息を吐いた。
 体調が思わしくないのか、失礼、と断りを入れたあとベッドに横たわりぬるくなった湯たんぽを引き寄せる。確か俺/私が生理痛のときに飲んでいた豆乳があったはずだ。どれだけ効果があるかはわからないが、何もしないよりいいだろう。
 紙パックに入った、賞味期限にはまだ余裕がある豆乳をマグにあけ、電子レンジであたためる。人肌程度に温まったところで引きあげて、試験管の三分の一まで水を注いだものにラムネのような薬剤を溶かし、静かにマグへ注ぐ。うまく豆乳の匂いと混ざって気にならなくなった。これで少しだけ、もとに戻るのが早まるはずだ。
 気分が悪そうに眉間にしわを刻むゲオルギウスの側に腰かけ、サイドテーブルにそっとマグを置く。
「起き上がれますか?女の方の俺があなたのような症状になっていたときに飲んでいたものを飲んでみませんか」
 だるそうに身体を起こすゲオルギウスの腰にクッションをあててやり、ハンカチで包んだマグを持たせる。マシュがスミレの花を刺繍をしてくれたかわいらしいハンカチ、それが少しだけ罪悪感を刺激する。
 ぽってり厚い唇がだるそうに薄く開かれ、溜息が零れる。顔と精神性が美しいひとはなにをしても綺麗だ。それはほかの英霊たちもうそうだけれど、刹那的に生きた人間の表情は誰も見たことが無いものである可能性がある。それでいて自分しか知らないかもしれない。それに得もいえない喜びを感じる。なんだか、憧れていたものが少し身近になったような錯覚に陥る、少しの失望を含んだ喜び。

 明かりを落として、昔聞いた歌を口ずさんで子守唄代わりにする。ふるさとを想い、家族や友達の息災を願う歌。
 いつもは頭を撫でようものなら、明言こそしないものの好ましくない、といったそぶりをされるが、今はむしろ心地よさそうにその長い髪を預けてくれている。時々何かの鱗だったり、欠片、血の塊などが絡んでいるのを丁寧に取り除き、俺/私が使っている櫛で梳くと元通りの艶が戻ってくる。
 手に取った毛束にこっそりキスを落として、何事も無かったように、梳く。今まで彼に相対するときは尊敬を全面に押し出してきたのに、ここらで我慢が足りなくなってしまった。今なら、彼、いや何と呼ぶべきかわからないが、この人と俺は理論上子を成せる、とあまりに倫理に反したことが頭をよぎったことを恥じる間もなく、ゲオルギウスの苦しそうな吐息に意識を引きずられる。
 ときにひどく傷むらしく、額に脂汗が浮いている。固く絞ったタオルで額をぬぐうと気持ちよさそうに目を細める。やっと、俺が彼に何かしてあげられた。
 してあげられた、といっても原因が俺なので手放しで喜べない。鎧越しでない彼の掌はひどく熱くて、傷とマメだらけだった。
「これから数日は、ここから出ないでください……もう、声が女性のものになっています」
 無言で頷いてくれる。いい機会だからマントを洗濯し、鎧にさび止めを塗っておくのもいいだろう。俺は変な方向に前向きだ。

 ◇
 朝、俺のものではない体温と寝息で目が覚める。それが自分が好ましいと思っている人ならばなおさらだ。まだ深い眠りの中にいることを確かめたのち、そっと肩に触れる。どこで貰ってきたのかわからない、きっと人間の者ではない深い噛み傷。その歯列の一つ一つをなぞっているうちに、聞きなれない女性の声で、おはようございます、マスター、と声を駆けられる。
「起こしてしまいましたか?すみません」
「問題ありません、そろそろいつも起床している時間ですから」
 ゲオルギウスが起き上がると俺の頬に髪の毛が降ってくる。失礼、とすぐ払われてしまったけれど、彼の匂いがふわりと鼻をくすぐるのでそう悪くない。

「マスター、これは?」
「その、下着の当て布です。こう、包装を剥がして……」
「そうだったのですか、これは失礼」
「いいえ、とんでもない……使い終わった当て布は隅にある箱に入れておいてください」
 申し訳なさそうにトイレに入り、生理用ナプキンを取り換える。言葉にしてしまえばそれだけのことなのに、ひどくそそる。そんな邪心を振り払うように朝食の準備をする。昨日のうちにドクター・ロマニにはオブラートにくるんで話をつけてあるから、よほどの緊急事態が無い限りは施錠したままになるはずだ。目玉焼きと、ベーコンと、トマトと豆のスープと、パン。あの恵まれた体格を意地するためにはこれでは少ないかと思ったが、食欲がいつもより無いらしいので、このくらいにしておく。
 食事の前にも、彼は何かに祈りをささげている。俺には祈る神なんていないが、先に食べ物に手をつけるのもなんだか居心地が悪くて黙って待っている。
「お待たせいたしました、いただきましょう」
「ええ、そうしましょう」
 さくり、と彼の歯がトーストに突き立てられたのを盗み見て、この人は特別おいしそうにものを食べるなと思う。自分が作った、あまり見栄えがいいとは言えない食べ物をおいしそうに食べているところを見ると悪い気はしない。

 仮にも彼も大衆からあがめられた存在であるが、今は洗い物を進んでしている。今日の朝の薬も飲ませたし、端的に言えば暇、である。
 それを聞いたゲオルギウスは、カメラを取ってきて欲しいという。持ってくると、マスター、と呼ばれ、脚の間に誘われる。この人は俺が純粋で、よこしまな心を持たない子供だと思ってはいないだろうか、と疑念に駆られるが大人しく収まっておく。柔らかな胸が背中にあたって気が気じゃない。
「あなたが救ってきた者たちの記録です」
 そんなものを撮っているとは知らなかった。思わず見入ってしまう。ローマの市街地で遊ぶ子供、寝ぼけ眼のマシュの髪の毛を梳くブーティカ、しくみが気になるのかレンズを覗き込むネロ、母の腕に抱かれるオルレアンの子供、ジャンヌの旗を広げて模様に見入るマシュ、それにドレイクの部下たちに飲みつぶされた俺、それを笑って冷やかすドレイク、介抱するマシュ。光源が松明だけなのでどうしても暗いが、その笑顔はどこまでも明るい。
 霧に煙るロンドン、モードレッドにジキル、寝所に行く前に行き倒れたアンデルセン、物思いにふけるシェイクスピア、折り紙をするフランケンシュタインと、俺とマシュ、遠くから撮ったのでピントがぼけているニコラ博士。そしてアメリカ。どこまでも広がる荒涼、という言葉が似合う大地にたたずむジェロニモと、その話を聞き入るマシュ。俺の顔に木の実を並べて遊ぶエリザベートとビリーと、それをたしなめるロビンフッド、エジソンの毛並に触れるか触れまいか迷う俺と、それを見守るブラヴァツキー。
 思わず笑いが零れる。恐ろしいくらいの責任が俺の両肩に圧し掛かり、おかしな体質まで抱えているのに、実にほほえましいじゃないか。
「こうして、皆あなたが血反吐を吐きながらも立ち向かうからこそ、生きた証を残せているのです」
 いつもみたいに説教臭くなく、優しくささやくように言い聞かせてくる。この人なりに俺を奮い立たせようとしているのかもしれない。

「これ、一枚もあなたの写真がないですね」
「そうですね……私はいつも撮る側でしたからね」
「治ったら、俺があなたのことを撮りたいです」
「ええ、そうですね、お願いしましょう」

「そう言えば、体調はよくなりましたか?」
「おかげさまで、随分良くなりました。時に刺しこむように痛みはしますが……そんな悲しそうな顔をするほどではありませんよ」
「本当ですか?遠慮はなさらないでくださいね」
「本当ですよ、ありがとうマスター」
 慈愛、という言葉が似合う笑みの作り方は変わらない。いまこの表情を記録に残したかった。

「あの」
「なんです?」
 本来メンテナンスが不要なはずの英霊の装備にさび止めを塗る手を止めて、こちらに注意を向けてくれる。
「竜を殺すこと……というか自分より強大なものに立ち向かうのが、怖いと思うときはありますか?」
「それはもう、怖くて堪らないときもありますよ」
 驚きのあまり彼から目を離せないでいると、苦笑いを一つ零して鎧を分解しはじめる。
「本当に?あなたほどの人でも?」
「ええ」
 意外だった。誰も彼もそんなそぶり見せたことが無いのに。彼ほどに伝説を積んで、英霊として召し抱えられるほどの偉大な魂でも、強大な敵は恐ろしいのだ。
「あの、俺本当にいつもいつも、怖くて……異形の敵や、思想を違えた英霊が、そしてあの、ソロモンが」
「マスター、あなたは本当に良く頑張っています……ドクターに聞いたら、あなたは特別な訓練を受けたわけでもない方だというじゃないですか」
「いつだって逃げたい、という気持ちが起きてしまう」
「あれだけの敵が立て続けに来るのであれば、そうなっても仕方ありませんね」
「……あなたは怒ると思っていました」
「怒る?」
「意気地なし、お前の両肩に人類の未来がかかっているというのに、って」
「……マスター、あなた私をそんなことすると思っていたのですか」
「だって、今までこうして話す機会もなかったですし」
「そうですね、いい機会だったかもしれませんね」
 とんでもない状況に陥っているというのに、悲観的な雰囲気は無い。むしろ前向きにとらえているような気すらする。

「あなたが苦しいとき、私が傍に居りましょう」
 胸がつぶれそうなほど苦しい。文脈からしてそんな意味じゃないはずなのに、すべてが終わってしまえば、英霊の座とかいう場所に戻ってしまうというのに。悟られぬよう笑顔で、そうですね、よろしくお願いしますと絞り出すのが苦しくて仕方ない。
「ほら、もう泣きそうな顔はおよしなさい、愛らしいお顔が台無しですよ」
「……子ども扱いはやめてください」
「おや、それは失礼」
 そうやってまた優しい言葉をくれたり、不用意に触れてきたり。俺が心残りをたくさんゲオルギウスに残してしまうようなことをする。人理さえ救済していまえば、俺の役割は終わりだから、合理的といえば合理的と言えるだろう。人理救済までは生かされているのだ。あなたへの執着で、俺は生き延びると言ったら、彼はどんな顔をするだろう。その執着が遠因となってあなたの身体は今こんな状態になって居ると知ったら。
 なんて恐ろしい想像だろう。知らせなくていいことは知らせないでおきたい。彼が、英霊の座とやらに帰ってしまうときには全て忘れてしまうにしても、俺がマスターだったときに、深い悲しみに沈んでほしくない。
 自分でも支離滅裂だとは分かっている。なら懺悔でもしようか?彼の祈る神に。あなたを崇拝する信者を、いずれ必ず別れが来る存在に執着するあまり、自分の体質に近づけて、教義上、良しとしない存在にしました。それでも、それでも俺は彼を愛おしいと同じ口で宣ことを許しますか。
 そこまで考えて、俺は許しなど求めていないことに気付いた。この背徳こそ、彼がいなくなったあと俺と彼をつなぐ。ならば許させてはいけない罪なんだ。これで俺の凶行にも説明が付く。
「マスター、どうしました。難しい顔をして」
「いえ、なんでもありません」
 笑い出したいのを堪えて、さっきから床についてしまっている髪をまとめる髪ゴムを探す。自分でも面白い道理を考え付いたものだ。

===
おそらく2016年6月19日発行のぐだゲオコピ本の再録です。

誰かのためにできること #FateGrandOrder #男夢主 #ゲオルギウス

誰かのためにできること #FateGrandOrder #男夢主 #ゲオルギウス
 古い書物の匂いが強くなるごとに、自分がいつもいる世界と隔絶されるような気がして、一人になりたいときはここに籠ることが増えた。
 あの、サーヴァントとかいう人間の理解の範疇を超えた生き物たちの中に居ると気が滅入ってしまう。あれは、たしかに見た目も触れた感覚も人間だが、決定的に違いすぎる。

 それはサーヴァントだから、俺と違いすぎるのか、育ってきた環境が違うからすれ違いは否めないのかがわからない。どんなに近づきたいと思っても、その決定的な違いが俺を邪魔する。


 ◇
 血の海、と表現するのが一番近いだろう。
 何と名前が付いている生き物かは知らないが、血は赤い。それをものともせず赤銅の鎧で固めた、ある人々に聖人と崇められるその人は、息絶えたそれに向かって歩みを進める。

「や、やめようよ、もう死んでる」
 怯えきった声が喉を滑り出し、震える手でマントの裾を掴もうと手を伸ばす。陰り始めた陽に隠れて表情が読み取れない。それに、このまま彼に背いたからと首を刎ねられるかもという疑念が浮かんで、手を引っ込めた。
 いつもなら、俺が恐れていると感じているなら心配はいらないと安心させるために頭を撫でてくれるのに、今は俺に背を向けて再び抜刀した。

「いいえ、マスター。あれは子を孕んでいます」
 竜殺し。
 その言葉が頭を何度もよぎった。自分の信じる正しさのためならどんなに残虐な手段を選んでも許されると考える存在だからこそ、何のためらいもなくその刃をワイバーンと呼ばれる生き物の胎に突き立てることができるのだろう。
 甘いことを言っている。理不尽なのは俺の方で、いずれ修正され、なかったことにされる世界であるものの人々が安心して生活するようにするには、今ここで殺しておくべきである、ということもわかっている。
 それでも、あんなに温厚で、師として尊敬に値する人が、自分が非道と考える道を歩んでいる。

 俺が目を背ける暇も、みっともなく悲鳴をあげるのを抑える余裕すらなく、肉と骨と臓器が断たれる不愉快な音をたてて彼は未だ生まれぬ竜の子を屠った。

 深い緋色の夕日に、白いマントが翻る。
 何に、どんな許しを請うているのか、何に、祈っているのか知る由もない。彼が信じる神はこの筆舌に尽くしがたい惨状がまかり通るということに関して、何か言及しているのかもしれない。

 ◇
 史学に触れたことがあるならばその名前を聞くのは一度では済まない、皇帝ネロの陣営に加わったとはいえカルデアのようなふかふかの布団と空調が用意されているわけではない。

 血と泥と汗を冷たい川で流し、ごわごわと固い服に着替える。最初の頃は不快だったけれど、もうとっくに慣れてしまった。
 もしかしたら、俺もゲオル先生や、ほかのサーヴァントたちと同じように、「総合的に考えれば必要になる殺害」にいつか慣れてしまう日が来てしまうのだろうか?
 たとえば、環境に慣れてしまうように。

 想像しただけで怖気が走った。未だ生まれぬ子ですら手をかけて、それを必要と断じる価値観をいつか俺が持ちえたとして、そうなってしまった俺のことを人間と呼べるだろうか?それはどちらかというと、大事な使命のために小さいものを切り捨てることを容認する、英雄と言うやつの価値観になるのかもしれない、と悶々と夢想する。

 パチパチと火の粉が爆ぜる音と、葉擦れの音が今は恐ろしく感じる。

「おや、マスター」
 急に、俺の思考の根源に居る人から声をかけられて大げさに驚いてしまった。
「隣に座ってもよろしいかな?」
「ええ、どうぞ」
 それ以外に選択肢はないだろう。俺が腰かけていた倒木に彼が腰を下ろせる場所をつくる。鎧のぶんだけ体積が増えるので、必然的に近寄ることになってしまう。
「恐ろしいかったのですね、あれが」

 あたりまえのことを言われて、正答がわからずたじろいでしまう。
 きっと、普段接している彼の性格からすると、正直に恐ろしかった、と言ってしまって良いだろうが、ネロ陣営の兵士、サーヴァントたちも無傷だったわけではない。そのように死力を尽くして戦った彼ら、彼らの戦いぶりを、怖かったの一言で言ってしまうのがどうにも失礼のような気がしてならない。

「マスター」
 呼ばれて顔を上げると、カルデアで見るような、俺が人生の師として仰ぐ人のやわらかな笑顔がそこにあった。
 笑顔一つで疑念が、緊張が、ほどけて消えて行ってしまうのだから、我ながら単純だと思う。鎧越しで、体温なんてひとかけらも感じられないけれど腕に手を伸ばしたら冷たい小手越しの掌が重ねられた。
「めずらしい、オルレアンで甘えたはもう治ったのかと思いました」
「いけませんか?」
 拗ねたように笑いかける余裕が出てきた。それを見てゲオル先生も安心したらしく、仕方ないと甘んじてくれるらしい。
「とっっても怖かったです!そうした方が、これからここで生きる人のためになることはわかります、それでも怖いものは怖かった!」
「そうそう、子供は素直が一番です。マスター……わかっていただけて嬉しいです」
「また子ども扱いする……怖いし、ひどいことするなって思うけど、わかるよ」

 額で軽く鎧を小突くと、驚いたような顔をされてしまった。日頃彼がどれだけ俺を子供だと思っているかがわかる。
「私から見たら、子供どころか、この世に生きる人類すべてが愛し児のようなものですから」
 こうして、遠くを見るような顔をするゲオル先生はあまり好きではない。隣にいるのは俺なのに、彼が見ているのは気が遠くなるほどたくさんの人なのだから。そのうちの一人の事なんて気にかけたことありません、と言われているような気がしてしまう。それでも、俺は尊敬と親愛と、そのほか俺も知り得ない気持ちを込めた視線を、ゲオル先生に受け取られる気配がないとしても、投げかけてしまう。


「じゃあ、ゲオル先生は人を好きになったことなんてないんだね」
 俺の意図がはかりかねる、と言った表情をさせてしまった。彼としては、好きなのだ。
 ただ、俺の好きと違うだけで。
「ごめんなさい、なんでもないです」
「そうですか?」
 きっともう、俺が眠たくなって自分ができないことを言いだしているのだと、ゲオル先生は考えている。その証拠に、俺が最後まで守っていた火を消そうとしている。
「まだ寝ない」
「マスター、よい子は寝る時間です」
「悪い大人だから寝ない」

 彼は優しいのであって甘くはない。俺のささやかな駄々もどこ吹く風で、念入りに火を消している。
「寝ないって言ったのに……」
「おや、子守唄が必要ですか?」
 ほら、こうしてわざわざ子守唄、と、さきほど俺が子ども扱いをするなといったらこの返しだ。
「……いいえ」
「よろしい。おやすみなさい、マスター」
「……おやすみなさい」

 わしわしと、子犬を撫でるように髪を撫でて、肩を軽く叩いて「足元に気を付けて」と言ってくれる。ここまで片付けられてしまったら寝るしかない。素直に寝所に向かう途中、思わず大きなため息が零れた。
 あれはやはり違いすぎる。
 その認識を深めるとともにあれが触れてくる回数が増えた。違いすぎるとわかっていくごとに思考が引きずられてゆく。
 変わりゆく自分と、あれを人型に、血の通った人間と同じ温度で作り上げたカルデアの召喚システムの考案者と、あれの在り方。どれから恐れていいかわからない。

 いや、もっと恐ろしいものがある。
 あれに深入りし、あまつさえ情を注ごうとしている自分の正気が一番恐ろしくてならない。

 俺の頭上でいつの時代も変わらず輝く星、あの瞬きがここに光として届く年月に比べれば些細な悩みなのかもしれない。そんなことを考えながら、眠れないであろう身体を寝台に押し込んだ。

2016/8/14