ワンドロ:ケーキ #レゾ #ヒロアカ #鳥師弟

「ケーキっておいしいよね。俺さ、大人になってから初めて食べたんだけど美味しすぎてびっくりしたよ」
 こうやって不遇だった子供時代をさらけだして特段憐れんだり気遣ったりしたりをせず、そうかとだけ言ってくれるこの後輩のことが不思議で仕方がない。
 情が薄いというわけではない。むしろ他人のために自分を捧げることができる英雄たりえる精神を持ったひとだ。
「この前の時任さん(ホークス事務所事務員)のお誕生会でチマチマケーキ食べてるなと思っていましたが、そういうことでしたか」
「食べたらなくなるし」
「そりゃ、そうだ」
「くだらなくて、涙が出そうになるくらい大切な時間だったよ。終わっちゃうのすごく寂しかったな〜……」
「感傷的ですね……またやればいいじゃないですか。誕生日は毎年来ますよ」
「ほんと、そうだよねぇ……誕生日を迎えられるように頑張ろうね」
「ホークスか頑張るんで、俺は高みの見物してます」
「ちょっと前までは俺が頑張るんでホークスは休んでてください!って張り切ってたのに」
「ホークスはただぼんやり休んでるより身体動かしてたほうが気がまぎれるタイプかなと思ってのことです。そうですよね?」
「そう。その通り。だから俺あんまり家に帰ってないんだよね。一人で休んでると考えが悪い方向にばっかりいっちゃって」
「だからカプセルホテルでの目撃情報がたくさんあるんですね」
「そう。他人のいびき聞こえる環境が一番ゆっくりできる」
「へー。よくわからないですね。あの生活感のなさ納得です」
「まあ使わないから、物置だよね」
「あの立地を物置に……」
「使いたかったら使ってもいいよ」
「ほんとですか? じゃあ今度みんなでシャトレーゼのケーキ全種類買って食べましょう」
「楽しそう。不二家のもやりたい。猫の形したやつとか」
「いいですね」
 あるかどうかもわからない未来の約束をするのは楽しい。そこまで頑張るかって思えるから。叶えられなくてもいい。そっちの方が楽しみだからくだらなくて何にも替えられない約束をする。ささやかな幸せを想像して眠りにつくのも楽しい。消化試合みたいに生きるより、ずっといい。