only you #カップリング #ブルーロック #スナロレ

「殴ったんだって? お前のパスをこぼしたチームメイトを」
「説教は受けてやったよ」
 へらへらと笑う俺のツラを、オヤジだったなら起き上がれなくなるまでぶん殴ったけどスナッフィーはただその瞳をぎょろぎょろと動かして黙っている。
「やっとサッカーしてやってもいいかな? と思ったのにさ、俺よりヘタクソなやつばっかりで頭きたんだよ。俺よりずっと長く練習してきても俺以下の実力しか出せない奴らが結託して、えらそうにお前のやり方は良くないなんて言うんだぜ。スポーツは結果が全てだろ。馴れ合いとか、感傷とか。一番いらないものにこだわってるやつらばっかりなんだよ」
 俺は言い訳するように長々と俺を怒らせた奴の方が悪いと並べ立てた。かっこ悪い。これじゃガキみたいだ。俺の言葉を黙って聞いていたスナッフィーは、トチって死んだ親友のことでも思い出してるのか目をすっと細めて、俺を見た。そしてそれを誤魔化すかのように小脇に抱えたボールを足先でいじり始めた。
「ロレンツォ、お前の言うとおりでもあるし、俺の経験則で言うと少し違うと思う。努力の積み重ねを美しいと思うのはどこでも一緒だ。サッカーはチームスポーツだからみんなが美しいと言うものを美しいと言っておくだけでもその集団には親しみを持ってもらえるんだよ。これは大人だから知ってるズルだ。大人はズルの手数が子供より多く知ってる。その代わり自分の経験してきたこと以外のことに恐れを抱く。だからロレンツみたいな、生育環境が違うやつがいるだけで異なる価値観への恐れが減る……ことを見越していたんだが、そうじゃないかもな。ロレンツォの言うとおり、結果が全てだ。それなのに文句を言うチームメイトはおかしいな」
「だろ?!」
「おかしいが、ロレンツォ、お前もじきに忖度ってやつを学んだほうがいい……ロレンツォが楽に生きるために」
「そんなもん、いらない。俺は金にならない、形にないものは信じない。他人からの信頼も必要ない。そんなもの、すぐ無くすか……自分から壊しちまうんだ」
「悩むことも大事だがな、夜は悩まないほうがいい。グラウンドに行こう。少しだけ練習してから寝よう」
「いいよ」
「ありがとう、ロレンツォ」
 
 
 
 こうして俺は、ちょっと問題を起こすとロレンツォが構ってくれることを学んでしまった。これは大人になってからも続くんだけど、徐々に構ってもらえなくなった。そのうえ、構ってもらいたくて問題行動を起こしてるということがスナッフィーにバレてるみたいで恥ずかしくなった。そんなことをしてまでスナッフィーの気を引きたいみたいで。
 でも一番気を引けるのは俺が結果を出せた時だ。それに気づいてからは俺はもうそりゃあ真面目にサッカーした。ちょっとでもスナッフィーの視界に入れるように、スナッフィーの夢を叶える道具としてうまく使えるんだぜとアピールした。虚しくなんかなかった。
 死んだ親友とスナッフィーが写ってる写真を写真立てに入れてるのを見て、俺はいつもなんだか気が重かった。生きて、スナッフィーのことを見てるのは俺なのに、スナッフィーは地獄の釜の中をずーっと眺めて、時々現実を見ては親友の影をグラウンドの中に探している。
 別に虚しくなんかない。俺はスナッフィーとは金と契約で繋がってるだけだし。信頼とか、無いし。そのはずなのに、俺何故かそんなスナッフィーに苛立ちを感じている。スナッフィーは気づいてか気づいてないのか、何も言わずに俺らのプレーを上から目線で眺めている。むかつく、嫌い、いなくなれ。そんな単純な苛立ちでしか自分の感情を表現できない。だから多分俺がチームメイトを殴ったのってスナッフィーのせいじゃないのか? いやでも、言われたな。自分の問題を他人のせいにするなって。
「殴ったんだって? お前のパスをこぼしたチームメイトを」
「説教は受けてやったよ」
 へらへらと笑う俺のツラを、オヤジだったなら起き上がれなくなるまでぶん殴ったけどスナッフィーはただその瞳をぎょろぎょろと動かして黙っている。
「やっとサッカーしてやってもいいかな? と思ったのにさ、俺よりヘタクソなやつばっかりで頭きたんだよ。俺よりずっと長く練習してきても俺以下の実力しか出せない奴らが結託して、えらそうにお前のやり方は良くないなんて言うんだぜ。スポーツは結果が全てだろ。馴れ合いとか、感傷とか。一番いらないものにこだわってるやつらばっかりなんだよ」
 俺は言い訳するように長々と俺を怒らせた奴の方が悪いと並べ立てた。かっこ悪い。これじゃガキみたいだ。俺の言葉を黙って聞いていたスナッフィーは、トチって死んだ親友のことでも思い出してるのか目をすっと細めて、俺を見た。そしてそれを誤魔化すかのように小脇に抱えたボールを足先でいじり始めた。
「ロレンツォ、お前の言うとおりでもあるし、俺の経験則で言うと少し違うと思う。努力の積み重ねを美しいと思うのはどこでも一緒だ。サッカーはチームスポーツだからみんなが美しいと言うものを美しいと言っておくだけでもその集団には親しみを持ってもらえるんだよ。これは大人だから知ってるズルだ。大人はズルの手数が子供より多く知ってる。その代わり自分の経験してきたこと以外のことに恐れを抱く。だからロレンツみたいな、生育環境が違うやつがいるだけで異なる価値観への恐れが減る……ことを見越していたんだが、そうじゃないかもな。ロレンツォの言うとおり、結果が全てだ。それなのに文句を言うチームメイトはおかしいな」
「だろ?!」
「おかしいが、ロレンツォ、お前もじきに忖度ってやつを学んだほうがいい……ロレンツォが楽に生きるために」
「そんなもん、いらない。俺は金にならない、形にないものは信じない。他人からの信頼も必要ない。そんなもの、すぐ無くすか……自分から壊しちまうんだ」
「悩むことも大事だがな、夜は悩まないほうがいい。グラウンドに行こう。少しだけ練習してから寝よう」
「いいよ」
「ありがとう、ロレンツォ」
 
 
 
 こうして俺は、ちょっと問題を起こすとスナッフィーが構ってくれることを学んでしまった。これは大人になってからも続くんだけど、徐々に構ってもらえなくなった。そのうえ、構ってもらいたくて問題行動を起こしてるということがスナッフィーにバレてるみたいで恥ずかしくなった。そんなことをしてまでスナッフィーの気を引きたいみたいで。
 でも一番気を引けるのは俺が結果を出せた時だ。それに気づいてからは俺はもうそりゃあ真面目にサッカーした。ちょっとでもスナッフィーの視界に入れるように、スナッフィーの夢を叶える道具としてうまく使えるんだぜとアピールした。虚しくなんかなかった。

 死んだ親友とスナッフィーが写ってる写真を写真立てに入れてるのを見て、俺はいつもなんだか気が重かった。生きて、スナッフィーのことを見てるのは俺なのに、スナッフィーは地獄の釜の中をずーっと眺めて、時々現実を見ては親友の影をグラウンドの中に探している。
 別に虚しくなんかない。俺はスナッフィーとは金と契約で繋がってるだけだし。信頼とか、無いし。そのはずなのに、俺何故かそんなスナッフィーに苛立ちを感じている。スナッフィーは気づいてか気づいてないのか、何も言わずに俺らのプレーを上から目線で眺めている。むかつく、嫌い、いなくなれ。そんな単純な苛立ちでしか自分の感情を表現できない。だから多分俺がチームメイトを殴ったのってスナッフィーのせいじゃないのか? いやでも、言われたな。自分の問題を他人のせいにするなって。
 そういうバカみたいな悩みはサッカーしてる時だけはついてこなかった。俺はただ、俺の中の嫌な俺が顔を出さないようにサッカーをしている。なんでもよかったんだ。サッカーじゃなくても。でもサッカーじゃなくちゃ、俺はここに居ない。まだあの今生の延長線上にある地獄で息ができなくなっているに違いない。ある意味、俺を救おうとして手放した大人より悪質なのかもしれない。あーあー、やめ。サッカーしよう。