鯉のぼりばっかり景気がいい #ヒロアカ #カプなし #轟冬美

夏も焦凍もこの家には寄り付かないのにお父さんは、しぼんだ身体を折り曲げて金太郎人形を玄関に飾り、鯉のぼりをあげる。
この辺じゃいちばん大きな鯉のぼりだ。

健康を祈る男児はだれひとりここにはいないのに、鯉のぼりは風を受けて元気にはためいている。夏くんはゼミのみんなと飲み会、焦凍は学校、燈矢兄さんは刑務所。
この鯉のぼりを買った時は燈矢兄さんの初節句だという。その頃にはまさかこんなことになるなんて誰も想像してなかった。
あの、燈矢兄さんの罪の告白……
轟家の罪の告白を思い出すたびに冷や汗が出る。けどほんの少しだけ、うれしかった。燈矢兄さんが生きていてくれて。そして期待した。もしかしたら燈矢兄さんが焦凍を虐待するお父さんを止めてくれないかなって。私じゃできなかったことを燈矢兄さんなら叶えてくれるんじゃないかって。
でも現実はそううまくいかない。燈矢兄さんは燈矢兄さんのためだけに行動した。やっぱり私の中のわだかまりは私か解決するしかなさそうだ。
燈矢兄さんのための仏壇はあの時から閉まったままだ。たぶんお父さんがやった。生きている人間の菩提を弔っても仕方ないもんね。そういう時ばっかり、マメなんだから。