俺だけが目覚めない夢 #ヒロアカ #夢小説 #女夢主 #心操人使
あの時、個性を使ってでも行くなと言ってしまえてたらよかったのか。何度自問しても答えは出ない。答えを持つ人は桐の棺に収まって目を閉じている。俺が人のために個性を使いたいというのだから使うべきじゃないというだろうか、それとも。いつもはそんなこと自分で答えを出すのに、この線香のにおいと念仏のようなものを聞き流していると正常な判断が失われてしまうような気がする。
死と隣り合わせだなんて座学でも実践でも学んだから理解したつもりでいた。けれど学びはどこまでも学びで、背中に這い寄る冷たさに似た焦燥が脳に満ちてやっと実感が湧いてきた。ああ、ナマエ、死んじゃったのかと。
顔だけ四角い窓から出している理由を誰も聞かない。見せられないような状態になってしまったのだろうと容易に想像がつくのだ。クラスメイトの誰もが縁者を亡くしている。そのうちの誰かがひどい死に方をしたのなら想像がつくのだろう。
クラスメイトのだれもが帰ってしまって、親族しかいない式場で通夜振る舞いに呼ばれた。あなたはナマエちゃんの何だったのと当然聞かれた。お付き合いさせていただいていましたというと口々に慰めの言葉をかけられた。親族の方だってつらいだろうに、なぜ半年と少し付き合ったくらいの俺にやさしくできるんだろう。
半年と少し。
自分で数えてあまりの短さに呆気に取られてしまう。そんなに短かっただろうか。あんなにまぶしくて、夢みたいな日々がそんなに、短かっただろうか。
俺だけが夢から覚めてここにいるみたいだ。
ヴィランとの戦争が本格化して壊されやすい墓をたてる風習が下火となって、代わりに開発されたのが遺骨の炭素をダイヤモンドにする技術だった。
遺骨ぐらいの炭素じゃそんなに大きな粒ができるわけではないので、ナマエのご両親がご厚意で下さった石はほんの爪先程度だった。それでもうれしかった。死んでしまってもこの燕脂色をしたベルベットの箱を見るだけでも思い出せる。仕事の都合上身につけることはできないことが残念だけど、時には一人の時間も必要ってことで。
寮生活の時はナマエだったダイヤにいってきますとただいまを言っていたら同室のやつに怖がられてしまったので、一人暮らしになった今、堂々と言える。
「いってきます。ナマエ」
返事はない。
さやさやと揺れるカーテンの向こうに、電車を待つ駅のホームに。そんなところにいるはずもないのに探してしまう、という歌があったが、無意識のうちに探してしまう。
そんなことをしていると知ったらナマエは笑うだろうけど、置いていかれるということはそういうことなんだとやり返すつもりだ。俺がもっと爺さんになって、俺だとわからないくらいにヨボヨボになってから。
2022/7/28
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うつくしくない愛 #ヒロアカ #夢小説 #女夢主 #治崎廻
うつくしくない愛 #ヒロアカ #夢小説 #女夢主 #治崎廻
治崎は、潔癖症だったのだと思う。
思う、と断定できないのは本人の口から聞いたわけではないからだ。本人は人が無許可で消毒もせず触れ合う方がおかしいと言っていた。それはそれで本人の世界の中では正しいことなので言及しないでいたが、私にも消毒を強要し、私に触れようもんなら私の体を隅からすみまで消毒しようとし、それが終わってやっと触れようというものだから辟易した。デリケートゾーンを消毒液で浸される苦しみは言葉を失ってしまうが、当の本人は慣れたとかなんとかで苦に思ってないのでやめてもらえない。クソみたいなやつだったけど、噂には、腕もなく頭も多少おかしくなっていると聞いてバチが当たったんだとうれしくなった。
名前は知らないけど、治崎の悪行に個性を利用されてしまった女の子がいたらしい。その子を手懐けるために私を利用しようと思ったこともあったらしく、母親の真似事をしろと命じられたこともあった。当然、拒否したが背中に拳銃のつめたさを感じてしまうとどうにもできなかった。そんなことは言い訳だと強くただしい人は私を非難するかもしれない。命が脅かされてなくて、優しくて、強い力を持った人。わたしはそんな人が羨ましくてたまらなかった。靴を舐め、媚びへつらうような生き方しかできないのだ。弱く生まれ弱く育つと。
その女の子は私に多少懐いて、本当の両親のことなどを話してくれたが、それっきりだった。
何の役にも立たないと叱責しながらも、それでも治崎は私に優しく触れた。それだけのことなのに忘れたくとも忘れられない。優しくて頼れる夫に恵まれて、何不自由なく生活をしているのに路地裏で狂ったように笑う治崎を見つけて足早に駆け寄った。
「治崎」
「あ? ナマエかあ。お前がオヤジを隠してるのか?」
「……なわけないでしょ」
「なら用はない。消えろ」
けたけた笑う治崎の頭を思い切り蹴飛ばして逃げた。怒声が背中に刺さり、あのころの習性で身を屈めたくなるが、持っていたペットボトルを投げ、ぽこんという間抜けな音を立てて当たるのを見た。
さよなら治崎、サイテーな男。願わくばさっさと死ね。
2022/7/10
治崎は、潔癖症だったのだと思う。
思う、と断定できないのは本人の口から聞いたわけではないからだ。本人は人が無許可で消毒もせず触れ合う方がおかしいと言っていた。それはそれで本人の世界の中では正しいことなので言及しないでいたが、私にも消毒を強要し、私に触れようもんなら私の体を隅からすみまで消毒しようとし、それが終わってやっと触れようというものだから辟易した。デリケートゾーンを消毒液で浸される苦しみは言葉を失ってしまうが、当の本人は慣れたとかなんとかで苦に思ってないのでやめてもらえない。クソみたいなやつだったけど、噂には、腕もなく頭も多少おかしくなっていると聞いてバチが当たったんだとうれしくなった。
名前は知らないけど、治崎の悪行に個性を利用されてしまった女の子がいたらしい。その子を手懐けるために私を利用しようと思ったこともあったらしく、母親の真似事をしろと命じられたこともあった。当然、拒否したが背中に拳銃のつめたさを感じてしまうとどうにもできなかった。そんなことは言い訳だと強くただしい人は私を非難するかもしれない。命が脅かされてなくて、優しくて、強い力を持った人。わたしはそんな人が羨ましくてたまらなかった。靴を舐め、媚びへつらうような生き方しかできないのだ。弱く生まれ弱く育つと。
その女の子は私に多少懐いて、本当の両親のことなどを話してくれたが、それっきりだった。
何の役にも立たないと叱責しながらも、それでも治崎は私に優しく触れた。それだけのことなのに忘れたくとも忘れられない。優しくて頼れる夫に恵まれて、何不自由なく生活をしているのに路地裏で狂ったように笑う治崎を見つけて足早に駆け寄った。
「治崎」
「あ? ナマエかあ。お前がオヤジを隠してるのか?」
「……なわけないでしょ」
「なら用はない。消えろ」
けたけた笑う治崎の頭を思い切り蹴飛ばして逃げた。怒声が背中に刺さり、あのころの習性で身を屈めたくなるが、持っていたペットボトルを投げ、ぽこんという間抜けな音を立てて当たるのを見た。
さよなら治崎、サイテーな男。願わくばさっさと死ね。
2022/7/10