ネスカイワンドロワンライ #カップリング #ブルーロック #ネスカイ

 唇を大切な相手にくっつけることを愛情表現だと最初に定義づけた人は、何を考えていたのかなんとなくわかる。
 朝目が覚めて最初に目に入るのは、僕の手のひらに収まる大きさのカイザーぬい。朝日を受けてまたたく金髪までは再現しきれないけど、あの淡い金はよく似た色があるもんなんだなと感心した。
 
 不敵な笑みを浮かべるカイザーぬい。ああかわいい、愛しい、なんかよくわからないけど心がつやつやして角が取れる。今日は寒いから、こっそり通販したあたたかいガウンを着せてやる。
「おはよう♡ カイザー。今日も頑張ろうね」
 そう言ってカイザーぬいにキスをして到底他人には見せられない笑みを浮かべていると、よく知った足音が聞こえてきてあわててぬいをしまった。
「お、おはようございます。カイザー」
「おはよう…… 本物にキスはしないのか?」
「えっ……じゃあ遠慮なく、あでもまだシャワー浴びてなくて」
「いいから」
「はぁい」
 
 
「あの綿の唇にはキスできて、俺のにはできねえのな」
「それとこれとは話が別……ってカイザーあのぬいぐるみの存在を知って」
「まぁな。普通に聞こえるんだよ。お前があの綿と会話してんのが」
「あれを会話とみなしてくれるのかわいい。カイザー大好き」
「……わかんねぇなぁ……」
 呆れた様子のカイザーは、興味をなくしたようだった。足音が離れていくのがわかる。
 カイザーぬいにこっそりキスをする。今度は本体にできる勇気が湧くように。唇にしてしまったら、僕らの中の何かが劇的に変わってしまうような気がして怖くて、あの双眸が失望の色に染まってしまうのが怖くて。
 
 
「じゃあカイザー♡シャワー浴びてくるから待っててね♡」
 本物の代わり、という意識はない。本当はこうできたらなぁという願いはある。カイザーとこんなふうになってみたいな、という祈りも、ある。
 綿のカイザーは何も言わない。ただ不適な笑みを浮かべて僕がシャワールームに向かうのを見守ってくれる。僕はカイザーとの繋がりはサッカーだけかと思っていたけど、そうでもないみたい。人として、彼のことが好きなんだと思う。その確信が自分でも持てていなかったけどあのキスをしたい、って気持ちは多分本物だった。
 
 熱いシャワーでも気分は晴れなかった。
 
 僕が浮かない気持ちでいても、ぬいはそうでもないみたいだった。いつもニコニコ(?)してるし。
「そうだなぁ……お互い引退したら、もう少し真面目に考えてみようかな……」
 それじゃ遅いよ、と言っているのか、そういう気持ちになった時がベストタイミングだよ、と言っているのかはわからないけど、ぬいぐるみのカイザーはぶすっとした顔をしない。かわいいカイザー(ぬいぐるみ)。
 情けない僕だけど、見守っててね。畳む