お題:耳 #カップリング #ヒロアカ #荼炎 #燈炎
水の中で聞く人の声みたいに、どこかぼんやりとした音が耳に届く。聞こえるからと言って返事をするだけの声帯は焼け落ちてしまっているので、目の動きで文字入力ができる機械でお父さんと意思疎通をする。
とはいえ細かいニュアンスまでは伝えきれない。そんな苛立ちをぶつけようにも身体はどこも動かない。
身体中の水分が入れても入れても蒸発するのに、お父さんは俺の胃腸につながる管に水を切らさないようにどんなに遅い夜中だって欠かさず点検している。そんなこともうしなくていいよ、無駄だよって言ってもいいんだ、って言って俺の世話を焼いてお父さん自身がが気持ちよくなってるのをみたくないのにそれを伝えられず俺は横たわることしかできない。
なんていうかこう、俺が無駄だからやめろって言っても俺のために何かしてくれるのがうれしくないワケじゃない。なんだけど、お父さんが俺を見る目が将来楽しみな息子、じゃなくて自分が世話をしなくては弱って死んでしまう可哀想な息子、になってるのが嫌なんだよな。
ああ、あの戦いで死ねればよかった。こんな無様を晒すぐらいなら。
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夢とカプが混在しています/#夢小説 タグと#カップリング タグをつけていますので、よきに計らっていただけますと幸いです
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みやこ 成人/神奈川への望郷の念が強い
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2023年4月の投稿[4件]
2023年4月30日 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する
2023年4月29日 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する
お題:はさみ #ヒロアカ が#カップリング #荼炎 #燈炎
お題:はさみ #ヒロアカ が#カップリング #荼炎 #燈炎
すーっと銀色の刃が俺を包む何重にもなった包帯を裂いてゆく。
もう長く持たない俺のために、訪問看護の人が来てくれている。お父さんは何か言ってるみたいだけどジージーと耳鳴りがするだけで何も聞こえない。でも触れ方でわかる。こわごわと俺がいつ気が変わってここを火の海にしてしまわないかと触れる方が訪問看護師さん。で、素人のくせに扱いがぶきっちょで、俺の皮膚がずるりと剥けてしまったときにびくっ、と震えるのがお父さん。お母さんは、ひんやりとしてるから一番よくわかる。
こんなになってまで、弱く守られるだけの俺に存在価値なんてあるのかな。
少なくとも俺自身は今の俺のことものすごくみじめだと思う。お父さんは知ってか知らずか、俺が暑いと感じてほんの少し身じろぎをしただけで氷枕をあててくれている。こんなになるまでお父さんは俺のことを見なかったんだと思うと涙が出そうになるけど、こんなコゲコゲになってて涙なんか出るわけなじゃん。
すーっと銀色の刃が俺を包む何重にもなった包帯を裂いてゆく。
もう長く持たない俺のために、訪問看護の人が来てくれている。お父さんは何か言ってるみたいだけどジージーと耳鳴りがするだけで何も聞こえない。でも触れ方でわかる。こわごわと俺がいつ気が変わってここを火の海にしてしまわないかと触れる方が訪問看護師さん。で、素人のくせに扱いがぶきっちょで、俺の皮膚がずるりと剥けてしまったときにびくっ、と震えるのがお父さん。お母さんは、ひんやりとしてるから一番よくわかる。
こんなになってまで、弱く守られるだけの俺に存在価値なんてあるのかな。
少なくとも俺自身は今の俺のことものすごくみじめだと思う。お父さんは知ってか知らずか、俺が暑いと感じてほんの少し身じろぎをしただけで氷枕をあててくれている。こんなになるまでお父さんは俺のことを見なかったんだと思うと涙が出そうになるけど、こんなコゲコゲになってて涙なんか出るわけなじゃん。
2023年4月16日 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する
泥の中でいっしょだよ #夢小説 #ヒロアカ #だいなま
泥の中でいっしょだよ #夢小説 #ヒロアカ #だいなま
だいなまちゃんは、わたしを助けてくれたんだよ。
“イギョウ”の人たちがおとうさんのしごとをうばってしまったと言って、いつもお家にいるようになった。わたしが学校からかえってくると、お父さんはお酒くさいいきを吐いて「うるせえ」とどなってカンを投げてくるようになった。
わたしはおとうさんといっしょにいたくなくて、公えんに行った。だいなまちゃんはそこにいたんだ。
「ク?」
くりくりおめめがかわいいだいなまちゃん。だいなまちゃんは「ひろってあげてください」とダンボール箱に入れられて、お腹がぐうぐうなっててかわいそうだった。わたしよりかわいそうなコを見つけてわたしは嬉しかった。わたしの手でも助けることができるコがいて、弱いだけの子どもじゃないんだって思えた。
だいなまちゃんに、お母さんがくれたお昼ごはんのお金を使ってメロンパンを買ってあげた。わたしと半分こなのに、とっても喜んでくれた。「クソが! クソが!」っていう鳴き声が喜んでいるのかはわからないけど。
だいなまちゃんはお家にはつれてかえれない。お父さんの気にさわるのはまちがいないから。さむい雨がふる中、泣いてすがるだいなまちゃんをふりはらっていくのは心がいたいけど、どうにもできなかった。うちのゴミ箱に入っていた古いセーターを入れたけど、温まりたいだけじゃないんだ。わたしも同じだからわかる。だれかにそばにいてほしいんだよね、だいなまちゃん。だいなまちゃんの小さなおててをにぎって、ごめんねと言ったけどだいなまちゃんは泣いていた。
いつかだいなまちゃんが本当の家族……わたしみたいな弱い子供じゃない、だいなまちゃんのことを助けてくれる人がくるからね。それまでわたしが生きのびさせないと。運動会のバトンリレーみたいに次の人に渡せるように。
だいなまちゃんは、わたしを助けてくれたんだよ。
“イギョウ”の人たちがおとうさんのしごとをうばってしまったと言って、いつもお家にいるようになった。わたしが学校からかえってくると、お父さんはお酒くさいいきを吐いて「うるせえ」とどなってカンを投げてくるようになった。
わたしはおとうさんといっしょにいたくなくて、公えんに行った。だいなまちゃんはそこにいたんだ。
「ク?」
くりくりおめめがかわいいだいなまちゃん。だいなまちゃんは「ひろってあげてください」とダンボール箱に入れられて、お腹がぐうぐうなっててかわいそうだった。わたしよりかわいそうなコを見つけてわたしは嬉しかった。わたしの手でも助けることができるコがいて、弱いだけの子どもじゃないんだって思えた。
だいなまちゃんに、お母さんがくれたお昼ごはんのお金を使ってメロンパンを買ってあげた。わたしと半分こなのに、とっても喜んでくれた。「クソが! クソが!」っていう鳴き声が喜んでいるのかはわからないけど。
だいなまちゃんはお家にはつれてかえれない。お父さんの気にさわるのはまちがいないから。さむい雨がふる中、泣いてすがるだいなまちゃんをふりはらっていくのは心がいたいけど、どうにもできなかった。うちのゴミ箱に入っていた古いセーターを入れたけど、温まりたいだけじゃないんだ。わたしも同じだからわかる。だれかにそばにいてほしいんだよね、だいなまちゃん。だいなまちゃんの小さなおててをにぎって、ごめんねと言ったけどだいなまちゃんは泣いていた。
いつかだいなまちゃんが本当の家族……わたしみたいな弱い子供じゃない、だいなまちゃんのことを助けてくれる人がくるからね。それまでわたしが生きのびさせないと。運動会のバトンリレーみたいに次の人に渡せるように。
2023年4月9日 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する
俺たちの間だって愛だよ #スラムダンク #夢小説 #男夢主 #木暮公延
俺たちの間だって愛だよ #スラムダンク #夢小説 #男夢主 #木暮公延
俺が一番嫌いなタイプのひとだった。
だっさいメガネ、髪型、ボーボーの眉毛。どれもが冴えない、どこにでもいるただのメガネくんだった。なんでそんな子がうちの……若干チャラめのバスケサークルに入ったんだろうか。偏差値がいい大学だから、他大の女の子目当てに入ってくるやつは結構いたけど、木暮くんはそういうタイプでもなさそうだった。
「木暮君はさ、どうしてうちのサークルに入ったの」
馬鹿正直にウーロン茶だけを飲み、かたくなにビールを拒む木暮くんのグラスにウーロン茶の上からビールを注ぎながら質問した。木暮くんは顔をひきつらせながら驚いたような顔をして俺を見た。ピアスだらけの耳、金髪。自分が生きてきた世界にはいなかったであろう、ヤンキーとはまた違うタイプのワルぶってるやつ。木暮くんは驚きながらも怯んだ様子はなく、俺の目を見て答えた。
「このサークルが……趣味で続けていくなら一番いいかと思ったんです」
「ふーん。まあまあ合ってる。俺らみんな医者になりたいからさ、突き指とか怖いしそんなに……めちゃくちゃガチってわけじゃないんだけど、いまあるバスケサークルの中では1番まじめかもね」
「先輩がそう俺に説明してくれたんですよ。入学式のときに」
「えーそうだっけ。覚えてない」
「はは」
俺は木暮くんからグラスを奪って、ウーロン茶とビールが混ざった苦いだけの水を飲み干した。
「ありがとうございます」
「べつにお礼言うようなことじゃないでしょ。俺がイヤなことしたんだから」
ごめんね? と謝るつもりもないセリフを吐き出して、俺は木暮くんとLINEを交換した。絵文字もスタンプもない、アイコンもデフォという、木暮くんらしいっちゃらしいユーザーを、俺は何をするでもなく眺めていた。
やがて通知が来て、「これからよろしくお願いします」と言うメッセージが来た。
「先輩からありがたいこと教えたげる。医者狙いの女の子ってマジでいるからね。下半身の躾はちゃんとするんだよ。それで何人も失敗してるから」と送ると、「ご忠告、痛み入ります」って。上司と部下じゃないんだから。
「明日バスケする?」と聞くと、『します』と即答。なんだ、この熱意。ずーっと芽が出なかった湘北で腐らずプレイしていただけはある。三井があとから参戦してきて、レギュラーの座を明け渡すことになって思わなかったはずはないのに、またバスケがしたくなるだけのものを、木暮くんは持っているのかもしれない。俺はそれがまぶしくて、自分がやる気のない怠けものに見えてしまって少しだけ苦しくなった。
一年生は一限がある代わりに、十九時にはフリーになることが多いという。それでも予習復習があるからいつでも暇ってわけじゃないけど、俺たちは時間を見つけて、あの小さなカゴにボールを放る生活をした。何を話すわけでもないのに、終わる頃には俺は久しく体験していなかった感覚を取り戻しつつあった。言葉を交わしたり、飲み会をして汚らしい飲み方をした訳でもないのに、俺木暮くんに親しみを感じていた。ひまつぶしにしては、あまりに心地よい時間がすぎていった。男同士の友情なんてもう手放してしまって、二度と手に入らないと思っていたけどそんなことないと信じさせてくれた。
本当はそれだけでよかったのに、どちらがどうしたとかじゃなくていつの間には俺らはおよそ友情とは呼べない関係になっていた。多分俺が酔ってた時にベロチューしちゃったら、木暮くん俺のこと恋愛的な意味で好きだったみたいな感じのこと言ってそんでもって……その辺からは記憶がない。までも、俺はたくさんいるセフレの中の一人に彼が参加しただけで、俺はまた大切な友達を失ったのだと被害者ヅラをした。
そんなふうに余裕ぶってたのは最初のうちだけで、木暮くんがときどきうちにきて真面目に勉強したり、一緒にご飯作ったり、木暮くんの十九の誕生日を祝ったり、なんか恋人同士みたいなことをした。木暮くんと一緒にいる時間が長くなればなるほど他のセフレと会う時間は無くなって、俺の生活には木暮くんが深く根付くようになった。
打算も、裏切りもない……穏やかな結びつきが俺たちの間にあった。
今まで女としてきたような、将来の専業主婦生活のための前置きじみたおままごとじみた関係ではなく、心から信頼し、そして大切にしあうことができた。友達から恋人になってしまってから、俺はもう女を好きになれないと悲観的になったこともあったし、友情を壊してまで恋という結びつきを選ばなくてもといじけたこともあった。けれどそのたび木暮くんは俺より一つ下なのに説教じみたことを言うのにそれでいて腑に落ちる解説をしてくれた。
俺はこんなに木暮くんが大切で、木暮くんだって俺のこと愛してくれてるのに、手を繋いで歩いたり路上でキスなんてできやしない。それがなんだか切なくて、俺はよく木暮くんと並んで歩くとき少しだけ距離を置くのだった。
木暮くんは俺が外面繕いたがるくせにその繕う時に使った針で傷ついているのをよく知っているので、眠りに着く前俺の頭をたくさん撫でてくれる。
俺は親父の病院を継ぐとしたら多分子供を残すことを求められるだろう。だからこれは終わりのある物語なんだと、木暮くんとずっとずっと一緒にいたいという期待を何度でも踏み潰す。期待をすれば、叶わなかった時に苦しい気持ちになる。俺の気持ちを知ってか知らずか、木暮くんは俺が悲しい気持ちになるとなぜかそれを察知して「ナマエさん、大丈夫です。俺はずっとそばにいますから」と言ってくれるのだ。永遠にしたいと願えば願うほど、それに伴う困難の多さに眩暈がする。この温もりだけを信じて守っているだけでいいならどれだけよかったか。
もしかしたら俺が大学卒業するまでに同性婚ができるようになっているかもしれない。そんな一ミリ以下の望みをいつまでも叩いて伸ばして、味わっている。叶うわけないと予防線を張りながら俺は、自分の言葉で社会を動かそうともせず、ただ誰かがそれを叶えてくれることを夢見ている。俺は弱いんだろうか。不甲斐ないんだろうか。そんな葛藤を木暮くんは知ってか知らずか、「今日はナマエさんがご飯当番ですね。楽しみです」なんて笑うんだ。ああ、目が覚めたら世の中がなんかいい感じに変わっててさ、俺たちが好き同士だったとしても誰も気持ち悪がらない、ふーんそうなんだでスルーされるようになってないかな。だめかな。畳む
俺が一番嫌いなタイプのひとだった。
だっさいメガネ、髪型、ボーボーの眉毛。どれもが冴えない、どこにでもいるただのメガネくんだった。なんでそんな子がうちの……若干チャラめのバスケサークルに入ったんだろうか。偏差値がいい大学だから、他大の女の子目当てに入ってくるやつは結構いたけど、木暮くんはそういうタイプでもなさそうだった。
「木暮君はさ、どうしてうちのサークルに入ったの」
馬鹿正直にウーロン茶だけを飲み、かたくなにビールを拒む木暮くんのグラスにウーロン茶の上からビールを注ぎながら質問した。木暮くんは顔をひきつらせながら驚いたような顔をして俺を見た。ピアスだらけの耳、金髪。自分が生きてきた世界にはいなかったであろう、ヤンキーとはまた違うタイプのワルぶってるやつ。木暮くんは驚きながらも怯んだ様子はなく、俺の目を見て答えた。
「このサークルが……趣味で続けていくなら一番いいかと思ったんです」
「ふーん。まあまあ合ってる。俺らみんな医者になりたいからさ、突き指とか怖いしそんなに……めちゃくちゃガチってわけじゃないんだけど、いまあるバスケサークルの中では1番まじめかもね」
「先輩がそう俺に説明してくれたんですよ。入学式のときに」
「えーそうだっけ。覚えてない」
「はは」
俺は木暮くんからグラスを奪って、ウーロン茶とビールが混ざった苦いだけの水を飲み干した。
「ありがとうございます」
「べつにお礼言うようなことじゃないでしょ。俺がイヤなことしたんだから」
ごめんね? と謝るつもりもないセリフを吐き出して、俺は木暮くんとLINEを交換した。絵文字もスタンプもない、アイコンもデフォという、木暮くんらしいっちゃらしいユーザーを、俺は何をするでもなく眺めていた。
やがて通知が来て、「これからよろしくお願いします」と言うメッセージが来た。
「先輩からありがたいこと教えたげる。医者狙いの女の子ってマジでいるからね。下半身の躾はちゃんとするんだよ。それで何人も失敗してるから」と送ると、「ご忠告、痛み入ります」って。上司と部下じゃないんだから。
「明日バスケする?」と聞くと、『します』と即答。なんだ、この熱意。ずーっと芽が出なかった湘北で腐らずプレイしていただけはある。三井があとから参戦してきて、レギュラーの座を明け渡すことになって思わなかったはずはないのに、またバスケがしたくなるだけのものを、木暮くんは持っているのかもしれない。俺はそれがまぶしくて、自分がやる気のない怠けものに見えてしまって少しだけ苦しくなった。
一年生は一限がある代わりに、十九時にはフリーになることが多いという。それでも予習復習があるからいつでも暇ってわけじゃないけど、俺たちは時間を見つけて、あの小さなカゴにボールを放る生活をした。何を話すわけでもないのに、終わる頃には俺は久しく体験していなかった感覚を取り戻しつつあった。言葉を交わしたり、飲み会をして汚らしい飲み方をした訳でもないのに、俺木暮くんに親しみを感じていた。ひまつぶしにしては、あまりに心地よい時間がすぎていった。男同士の友情なんてもう手放してしまって、二度と手に入らないと思っていたけどそんなことないと信じさせてくれた。
本当はそれだけでよかったのに、どちらがどうしたとかじゃなくていつの間には俺らはおよそ友情とは呼べない関係になっていた。多分俺が酔ってた時にベロチューしちゃったら、木暮くん俺のこと恋愛的な意味で好きだったみたいな感じのこと言ってそんでもって……その辺からは記憶がない。までも、俺はたくさんいるセフレの中の一人に彼が参加しただけで、俺はまた大切な友達を失ったのだと被害者ヅラをした。
そんなふうに余裕ぶってたのは最初のうちだけで、木暮くんがときどきうちにきて真面目に勉強したり、一緒にご飯作ったり、木暮くんの十九の誕生日を祝ったり、なんか恋人同士みたいなことをした。木暮くんと一緒にいる時間が長くなればなるほど他のセフレと会う時間は無くなって、俺の生活には木暮くんが深く根付くようになった。
打算も、裏切りもない……穏やかな結びつきが俺たちの間にあった。
今まで女としてきたような、将来の専業主婦生活のための前置きじみたおままごとじみた関係ではなく、心から信頼し、そして大切にしあうことができた。友達から恋人になってしまってから、俺はもう女を好きになれないと悲観的になったこともあったし、友情を壊してまで恋という結びつきを選ばなくてもといじけたこともあった。けれどそのたび木暮くんは俺より一つ下なのに説教じみたことを言うのにそれでいて腑に落ちる解説をしてくれた。
俺はこんなに木暮くんが大切で、木暮くんだって俺のこと愛してくれてるのに、手を繋いで歩いたり路上でキスなんてできやしない。それがなんだか切なくて、俺はよく木暮くんと並んで歩くとき少しだけ距離を置くのだった。
木暮くんは俺が外面繕いたがるくせにその繕う時に使った針で傷ついているのをよく知っているので、眠りに着く前俺の頭をたくさん撫でてくれる。
俺は親父の病院を継ぐとしたら多分子供を残すことを求められるだろう。だからこれは終わりのある物語なんだと、木暮くんとずっとずっと一緒にいたいという期待を何度でも踏み潰す。期待をすれば、叶わなかった時に苦しい気持ちになる。俺の気持ちを知ってか知らずか、木暮くんは俺が悲しい気持ちになるとなぜかそれを察知して「ナマエさん、大丈夫です。俺はずっとそばにいますから」と言ってくれるのだ。永遠にしたいと願えば願うほど、それに伴う困難の多さに眩暈がする。この温もりだけを信じて守っているだけでいいならどれだけよかったか。
もしかしたら俺が大学卒業するまでに同性婚ができるようになっているかもしれない。そんな一ミリ以下の望みをいつまでも叩いて伸ばして、味わっている。叶うわけないと予防線を張りながら俺は、自分の言葉で社会を動かそうともせず、ただ誰かがそれを叶えてくれることを夢見ている。俺は弱いんだろうか。不甲斐ないんだろうか。そんな葛藤を木暮くんは知ってか知らずか、「今日はナマエさんがご飯当番ですね。楽しみです」なんて笑うんだ。ああ、目が覚めたら世の中がなんかいい感じに変わっててさ、俺たちが好き同士だったとしても誰も気持ち悪がらない、ふーんそうなんだでスルーされるようになってないかな。だめかな。畳む