『うつくしくもはしたない嘘つき』
#MHA / #山田ひざし
碧、青、蒼。
ある色を喩える言葉はいくつかある。そのうちのどれがひざしの瞳の色を言い表すことができるんだろう。としげしげと眺めていた。ひざしは大人しく見られていてくれている。まつげまで金なんだなあなんて新たな発見もある。
「小さいころ瞳の色が青とか赤の人はフィルムをすかしたような視界なんだって思ってた」
「それ、小さい頃よく言われたなぁ」
「やっぱり?」
ひざしはファンレターの山の天辺から一つ取り上げて開封した。途端、指先から血が滴り落ちた。
「いて」
「剃刀? 危険物とかチェックしてるんじゃなかったの?」
「まあ人力だからな。見落としもあるさ」
かわいい柄付きの絆創膏を渡すと、素直に巻いている。手紙の内容は至って普通。好きですとかファンですとかだったらしい。
「好きならなんで傷つけようとするかねえ……」
「私は少しわかる」
「え?」
「好きな人の傷になりたい気持ちが」
「ふーん……そんなもんかねえ」
理解できない、といったふうに剃刀をティッシュに包んで不燃ごみに捨てたひざしは他のファンレターに手を伸ばした。結局のところ、日のあたる場所に身を置いていた彼には理解できないんだろう。星に手を伸ばして掴み取ろうとするような途方もない相手を好きになっている不安な気持ちや、厄介な女になりたくないという深々と降り積もる恐怖が。
話すつもりもないが、こうしてひだまりの中穏やかに好意に囲まれている彼を見ると冷水を浴びせてやりたくなることがある。好きだと思っていた相手から冷たくあしらわれ泣き縋る気持ちを身をもって理解させたくなることも、ある。
金髪を一房手にとって口付ける。その青だか碧だかが私に向けられて……不服そうに歪んだ。
「髪だけ?」
「気が済んだから」
「そう」
かまってほしいの、追ってきてといったらどんな顔をするのか教えてほしい。実際言ってみるのは怖いから、教えて。
お題はGarnet様
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