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#MHA / #相澤消太

#MHA / #相澤消太

 深夜帰宅になることも、最近はそう珍しく無くなってきた。
ヴィランとの戦いが佳境を迎えるとかなんとかテレビで言ってた。そういえば確かに灯火制限や食事の配給などされることが増えた。そしてどの仕事も人が足りないまま回さないとならなくなってしまい、こうして末端も末端の私みたいな凡人もお国のために仕事をしている。気分はもう戦争なんだ。
 そういえば消太が帰らなくなって随分経つ。一度は雄英の校舎が避難所になるとか言って来いっていうメッセが来てたけどそれどころじゃなくて無視してたら音信不通になった。いうこと聞かない恋人を首根っこ掴んで連れてくるほど暇じゃないんだろうけど、なんだそれで終わりかよ、という気持ちが正直にいうとある。
 適当にメイク落として、誰が見る訳でもない顔にパックを貼り付けて具なしラーメン。消太がいない私の生活は呆れるほど気を使わなくなった。
 シンと静まりかえるマンションの一室。静かなのはここだけじゃなく、街全体が静かなのだ。今や誰が敵となるかわからない状況で、音を立てたり、光を漏らしたりする人なんていなくなった。私も雨戸を閉めたまま暮らしている。
 メッセージが二件。一つは消太。一つは職場の先輩。職場のメッセージを見ると、治安維持の観点から仕事している場合じゃないからとりあえず近くの避難所に全員避難。その後のことは避難してから考える、という内容。そんなに状況が切羽詰まっているんだな、と自分ごととは切り離して考えてしまった。なんだか漫画の世界を見ているようだ。コソコソと生きて、あとは戦える人が頑張ってねなんて。
 消太の方は、今から行く荷物纏めろ だけ。わかったと返事をしてボストンバッグに着替えと生活用品を詰め込んだ。なけなしの貯金をはたいて買った婚約指輪も持っていくことにした。私のと消太の分。私しかつけてないから馬鹿馬鹿しいし、多分一緒に買いに行ったことも忘れてるだろうけど、一応。

「……ナマエ、ここに置いてた指輪知らないか」
「忘れてったのかと思って捨てた」
「は?」
「ウソ。消太のも私のも持ってる」
「ならいい。行くぞ」

 こうして二人歩くなんて本当に久しぶりすぎて、いつが最後だか思い出せないくらいだ。少し猫背で信じられないくらい頼りない背中。百年の恋も覚めてしまいそうだから、覚めないうちにもう一度眠り直すのだ。聞き手じゃない方の手をそっと握ると握り返してきた。ぽそりと学校前ではしないからななんておこごと付き。体温なんてないんじゃないかと思うくらいの低血圧なのに手のひらは人間のあたたかさだった。このまま到着しなければいいななんて思っても言わない。
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