やさしい人だから、お願いはなんでも聞いてくれていた。
けれど、これだけは聞いてくれなかった。


私が投げかけた言葉を受け取って、す、と息を吸った音がしてそれきり何も言えなくなっちゃったみたい。あまりにみじめで目も当てられなかったかな。
「加奈子のことは好きなんだけど……」
「そういう好きじゃない、ってやつ? よく聞くよね」
「本当にごめん」
「謝ることじゃないでしょ」
「でも、加奈子のことは好きなんだ」
「陸の好きと、私の好きが違うんだよね。同じ好きになってほしかったけど、なれない。なら、私は一緒にいるのがつらいからさよならなんだけど、さよならを回避するために、好きっていうのもまたつらいから、さよなら」
「……本当にそれしか、ない?」
「うん、私の選択肢の中には」
「そうか……」
「なんで陸がそんなつらそうな顔してるの」
「俺、心のどこかでずっと加奈子は一緒にいてくれるものだと思ってたから」
「そんなさあ、子供じゃないんだから」
「加奈子と同じ好きにならないとダメなのか」
「……うん、いまの私は、そうしたくないから」

失恋する側は私のはずなのに、陸はあんまりにもつらそうな顔をしている。苦痛って感じ。でも私はここで甘い顔しちゃったら、次の人にいけないから、バシッと切り捨てないと。

「同じ好きになるまで、待っててもくれない……?」
「うん、待てない」
「……」
別離の予感に頭を抱える陸。かわいい。こんな情けない陸を見れただけでも私のこの気持ちには意味があったのかもしれない。
「加奈子、でもこの街に帰ってきたときには」
「会うくらいならいいよ」
「……やった!」
「なにそれ、そんなに私のこと手放したくないのに」
「でも、ダメだ……キスしたり、そのほか、普通に恋人がすると思われてることをするのが……」
「怖い?」
「そう、なんか、説明できないけど」
「ふーん、説明できるようになったら聞いてあげてもいいよ」
困ったように笑う陸、最後にあった陸はそんな顔をしていた。さびしい、いかないで、でもあなたが望むことはできない、みたいな顔。あんなにりりしくて誰のことも見ていない、ボールしか見てないような人でもあんな顔をする。

新幹線がするすると風景の間を滑り出し、やがて過去のものにする。まるで私たちのすれ違いをなかったことにするみたい。あんまりにも早くて、どこにだっていけそう。例えば、陸のいない星とかに。


2024/2/2 大失恋祭 前夜祭 wavebox