御鷹の寿史くんに弟ができたらしい。かろうじて星乃につらなる我が家に御鷹家の事情など雲の上のことだが、寿史くんと同級生ということでそのあたりのうわさは入ってきやすい。入ってきやすいというか本人から聞くことが多い。
「お、おとうと」
「そう、光希っていうんだ」
「へえ、靴下とかお祝いに買おうかな」
「く、くつした? ミックスジュースの方が喜ぶかも」
「え?」
「え?」

話に食い違いがあったらしく、光希くんとは高校一年生で赤ちゃんではないらしい。だが記憶の一切がないとか。怪しさ満点だと思う。けれど本人はいたってのんびり穏やかな子だ。

「こんにちは、加奈子おねえさん」
「こんにちは光希くん。ほら、おみやのミックスジュースだよ」
「わあ、ありがとう」
「いいえ、ありがとうが言えてえらいね」
ミックスジュース一本でこんなに喜んでもらえてうれしい。

「寿史くんがよく教えてくれるから」
「はあ〜寿史くんの教育が行き届いてるね」
「いやいや、光希がしっかりしてるから」
「二人ともが良い兄弟だからだね」
「そうだったらいいな」
どことなく笑顔が似ている気がする。頬を緩ませてふにゃふにゃ笑う二人の兄弟は今日も昼ごはんを一緒に行くらしい。
「加奈子おねえさんも一緒に行かない?」
「えっいいの?」
「もとからそのつもりだったよ。行こう加奈子」
こうして過ごしていると単なる同級生と後輩に見えなくもないが、彼らはこの地球に迫る脅威「イーター」を討伐する能力をもつ「ヒーロー」たちだ。明日こうして一緒にご飯を食べれないかもしれないと思うと足元に穴が開いたような不安を感じるが、彼らがそういった後ろ向きな考えを表に出すことはない。したってしょうがないからなんだろうけれど、強さを感じずにはいられない。同時に彼らの無事を願うばかりだ。