「まひるちゃん、さよならだね」
「次会うときは、私は舞台にいたいな」
そんなことをこの北の大地に置いて、まひるちゃんは故郷を後にした。最初の数ヶ月は手紙のやりとりをしていたけど、そのうちどちらかからか、連絡は絶えていった。
キラキラとした金色のいろどりを添えたハガキが投函されていると気づいたのは数日前だった。新国立第一歌劇団の露崎まひるの初舞台のお知らせだそうだ。覚えていてくれたんだという喜びと、まひるちゃんがいなくなってから空虚な時間を重ねてしまった自分が同じ空間に会するなんて耐えがたいことだけど、せっかくのお誘いなので思い切っていくことにした。
舞台の上のまひるちゃんは、なんというか頼りなくて、誰かに寄りかかっていないと生きていけなさそうな子だという印象に変化はないんだけれど一皮も二皮も剥けたという印象を与えた。新国立第一歌劇団は有名で伝統ある歌劇団だから、入団試験などあったのだと思う。それを乗り越えたのだから私の生きる世界とはまったく違ってしまっているのだろう。
まひるちゃんは私の知らない世界の人になってしまった。さびしさとか、私には何にもなくなっちゃったなという諦念などがゆるく渦を巻いて私を飲み込んだ。まひるちゃんは私に気づいていたようすで、今度お茶しようねなんて約束をした。私の小さな絶望も知らぬままで、彼女は舞台で生きかえるらしかった。
「加奈子ちゃん」
そう私を呼んで雪に足を取られて転ぶまひるちゃんはもう死んでしまって、神様に次は舞台で生きなさいと使命を受けて降り立ち、私に永訣の別れを言った。もうあの頃の私たちはいないと告げて次の舞台へと飛び立っていった。
お題は天文学様より
