マネージャーといっても大会やほかの流派との試合なんかは各々組んでくるし、経理は外注。やることといえば主に家事だ。
相撲部屋みたいにたくさんの弟子がいて、たくさんの食事洗濯掃除買い物その他名もなき家事をこなすのかとイメージしていたけど、買い物は紅丸さんや真吾さんが手伝ってくれるし、いい大人だから当たり前かもしれないけど各自の居室は各々する。それに道場は格闘家の心を映す鏡だ的な精神論を掲げており一番面倒な場所の掃除はしなくてもいい。


そうするとやることは共用部の掃除、それと料理くらいか。

丁寧にお出汁をとる味噌汁なんて一人暮らしだったら絶対しなかったけど、これだけ食べる人がいるし、文句言わないどころかおいしいおいしいと食べるのだから作ってて悪い気がしない。
手間暇かけて見栄えを気にして。今日はチーズトマトハンバーグとカボチャのポタージュとその他副菜。栄養士さんの指導に基づいてメニューは決められているのだけど、月に何度か好物を並べる日がある。今日がその日だ。

うんともすんとも言わずモクモク……モクモク……と咀嚼を繰り返す真吾さんを見ている。いつも何かとやかましい(かわいいタイプのやかましさだから好きなんだけど)真吾さんが黙って食べているのが珍しくてついつい目が離せない。しっかり噛んで食べる習慣がついているので食べる速度は決して早くない。けれどモクモク……と咀嚼は止まらない。
「いつもおいしいおいしいって食べるのに、好物が出る日は逆に黙るんだね」
嚥下、そしてすっかり冷めたお茶を飲んでやっとひといきついた真吾さんはずいぶん落ち着いた様子で話し始めた。
「いつだっておいしいですけど、好物はもう最高なのでがっついちゃいました」
「そうなんだ、お邪魔したね。ゆっくり食べててね。おかわりあるよ」
「いえ、栄養士さんが決めた規定量以上は食べません」
「わかった。明日味変してお昼に出そうかな」
「ほ、ほんとっすか!」
その嬉しそうな顔見るだけで、この求人に応募して、格闘家のマネージャーとかいうわけのわからない仕事する気になる。かわいい。