「真希ねえさま」
「おう、加奈子か。元気にしてるか?」
真希ねえさまは、まるで近所で親戚の子に会ったかのような気楽さで話しかけてくださったけれど、禪院の屋敷は血の香りでいっぱいで陽気さの一欠片もない。真依さんは死んでしまったらしい。真依さんの死化粧を頼むと言われたので、あわてて化粧道具を引っ張り出して真依さんの失われつつある血色を取り戻させた。
「真依の友達に遺体を預けるつもりでいるからさ、こんな顔じゃ真依も会いたくないだろと思って。助かったよ加奈子」
「ねえさま」
「どうした?」
「どうして、わたくしも殺してくださらないの?」
禪院の男に虐げられているとはいえ、禪院の男に守られて生きてきたわたくしは全く生きる術をもたないまま禪院の庇護から放り出された形になる。恥を晒して滅んだ家を弔いつづけるならいっそ殺して欲しかった。どうせなら、真希ねえさまに。
「死にたかったのか、加奈子」
「ええ」
真希ねえさまが東京に出られたとき、死んでしまえればどんなによかったことでしょう。傍流の女子がどんなに辛い目に遭うかねえさまはご存じでしたかしら。
「真希ねえさまと、東京で遊んでみたかったわ」
「……黄泉の国にも都があるだろうよ。真依と遊んで待ってろ。すぐいくから」
「まあ、ご冗談を。すぐに来られたら追い返してしまいますからね」
「はは、厳しいなァ……」
真希ねえさまが苦笑いした、とこのまなこが見たあとすぐにわたくしの意識は途切れ、骸の山の仲間になったのでした。
「加奈子、お前、生きたくなかったのか……」
ひとりごとは、誰が聞くこともなく闇へ溶けていった。
加奈子は弱っちいからな、私の後ろにいなといつも連れて歩いた加奈子。いつだって一緒にいた加奈子が直哉に召し上げられてから、手出しができなかったこともあって手をこまねいていたらこのザマだ。生きたくない、救いたいと思っていた女の、懇願。この戦いが終わったら禪院の女を逃してやろうと思っていた矢先の加奈子の懇願。
流せるような涙はなく、ただ粛々と骸を増やすだけだった。まとめて燃やされてしまうであろう骸から、加奈子が大切にしていた櫛を持っていった。墓に入れたらここを目指して帰ってこいよと言えるように。
お題は天文学様より