「で、どんな感じよ」
「どんなって……晋が想像している通りだよ」
思わずでかい声でウッヒョ〜!!!だなんて出そうになったけど、過大なにやけだけに抑えた。エロ漫画だけのことが現実に起こるなんてこんなにうれしいことはない。
「服に擦れて大変だったんじゃない?」
「絆創膏をはってたけど、これもダメだ」
「軟膏と絆創膏のガーゼが擦れる?」
返事はイエス。
現実は小説より奇なりとはよく言ったものだ。エロ漫画ではちくばんでどうにかなるが、現実はそうはいかないのである。
「仕事に支障でてる?やめようか?」
「出てない……晋がしたいんだろ? いいよ」
「しょ〜〜と好き〜っ♡ 」
「お前、バカだろ」
「エロの前では全人類バカでしょ……」
「晋と一緒にするな」
舌打ちのひとつでも出てきそうな顔。凄む顔がエンデヴァーそっくりでちんちんが萎えそうである。
服の上から乳首を探そうとするだけで嫌そうに身を捩る焦凍をどうにか捕まえて後ろから抱き締めると覚悟を決めたみたいに力が抜けた。本気で嫌がるならやめようと思っていたけど許してくださるらしい。その優しさに存分に甘えることにする。
「なんか乳首、色が可愛くなってない?」
「そうか?そんなじっくり見てるの晋ぐらいだろ」
「すみませんね、彼氏の乳首凝視してて」
そんな軽口たたけるのも今のうちだからなと悪役じみたことを考えながら爪を立ててみたりやさしく押し潰してみたりするとだんだんいい感じの反応が見えるようになってきた。
「……っ、う」
「キスしていい?」
「きくな、そんなこと」
とかいう割にそっちからしてくれるというか、半分噛みつかれているようなキスをされていよいよ愚息が我慢でにない状態になってきた。素っ裸になると焦凍の美しい筋肉に見惚れてしまうのだけど、エロで脳が浸された今はじっくり見ている余裕はない。けれどこれだけ(焦凍が)頑張って開発した乳首を性感帯にせず終わるというのも男が廃る。乳首だけで半勃起ならまあいいかとも思うけれど、焦凍が戸惑い半分で自分の乳首がどうしてしまったのかと触っているのを見るとなんだか庇護欲が湧いてくる。
「大丈夫、俺がやってって言ったんだから」
「ほんとか……?乳首が、その、気持ちいいっておかしくないか……?」
「おかしくないよ、平気」
「じ、じゃあ晋が責任とってちゃんと気持ちよくしろよ」
「りょーかいです」
そんなに煽られて黙っていられるほど躾のなっているちんちんではない。もうギンギンのギラギラに勃起していて、早漏扱い待ったなしの状態になってしまっている。どこで習ったかもしれない煽り文句並べてくるんだから、焦凍も責任とって気持ちよさから逃げるなよ。
最初こそケツに挿れるなんてアリ?と思っていたけど大事なのはそういうことじゃなくて誰とセックスするかということなんだとわかってきた。万が一でも切れてしまったら大変だからある程度セーブしながらヤっているが、そんなこと考えられない日がいつか来そうだ。お互いに脳がいい感じに溶けてきているというか。
「ん♡ ♡ ♡ ぅ゛っ……♡ 」
オトコのケツの穴がなんで気持ちいいかというと前立腺という器官を押し上げているところにあるという。それを知ってから妙に納得した。じれったそうにもぞもぞしている時はハズレ、アタリはまあ、そういうこと。
乳首を爪先で掠めるとシーツを思いっきり引っ張るものだから布団ごと破壊されそうでソワソワしたけどまあいい。布団は直せるから。喉奥で引っかかった喘ぎが荒れた呼吸の隙間から漏れ出ていて実にエロい。
「っ゛、あ゛っ゛♡ ♡ 」
「声、我慢しなくていいよ」
「でも、下にっ……」
「あ?親父? いいよもう、別に」
「晋っ……♡ 」
「次はホテル行こうか」
「う゛ぅ……っ♡ ♡ 、…………ッ♡ ゛、あっ、……♡ 」
「シーツ噛んでいいよ、ほら」
素直にシーツの端を噛んで声をこらえる焦凍が可哀想なので次からは下に人がいない時か、ホテルで致すと心に決めた。お腹の中、ケツの穴からちんこが届く距離に前立腺を配置するなど、神様というやつはいい趣味をしている。助けを求めるように宙を掻いた手を俺の首の後ろに回してやると、背骨をへし折らんばかりの力が加わった。ヒーローとのセックスって命かけないとダメなのかな。
「晋……っ゛♡ 、も、や゛っ、め゛、♡ …………っっ♡ ♡ 」
「やめる?」
答えはノー。
素直で大変よろしい。
「…………ん゛ぇっ゛♡ ……う、ぁ゛っ♡ ♡ 」
こうしてエロでシャバシャバになった脳でうろんな言葉を吐き続ける焦凍にキスをしていると、お互いに限界が近いことを悟る。相手がイきそうかなんてなんとなくでしかないけど、キスの性急さとか、言葉が言葉にならなくなってくるとか、予兆があるのだ。
「んぐ、っ゛♡ ♡ ♡ 、 っ゛ー〜〜〜…………ッ♡ ゛♡ ゛」
俺が突き上げるのと同時にびくびく震える身体が愛おしくて抱き締めているとまた、肺をつぶさんばかりの抱擁。腹上死はいつだって現実の延長線上にある。
「っ、は、はぁっ……は……」
まだ目が虚な焦凍から離してもらえずにいるので、流石に苦しさを表明した。
「ゴムくらい外させてください」
「しょうがねえな」
コンドームを捨てたら隣に来いだなんて、スパダリみたいなこと言うから大人しく従っておいた。シングルベッドに男二人は狭すぎるが、焦凍はそんなこと気に求めずキスをせがんでくる。
「学生時代より筋肉ゴリゴリになったのに、甘えん坊でちゅね」
苛立ちを湛えて無言で腹パンしようとする時の顔がエンデヴァーそっくりで、さらにちんちんがしおしおになってしまった。キレた時の表情が親子そっくり。
「筋肉は関係ねえだろ……甘えちゃ悪いのかよ」
「そんなことないけど……」
「じゃあ甘やかせ」
「おやつ……? 寿司……茶碗蒸し?」
「茶碗蒸し」
「くださいだろ」
「ください」
偉そうなのに素直だから面食らってしまう。だるい体を引きずって階下の蒸し器を除くとたくさんの蒸し立て茶碗蒸しがあった。
「もらうね」
「はいよ」
よかった。バレてないらしい。バレててもわざわざ言うことでもないと思うけど。
「う、うまい……」
「今日のは親父作だから、間違いねえわ」
「そうか、晋も作れるのか?」
「これほど上手くはねえけど、できる」
「すげえ」
「焦凍はもっと他のことできるでしょ」
「でもできないことだらけだ。なんで領収書を取ってこないといけないかがいまだにわからねえし、バイク乗れねえし」
「領収書は……なんでだろうな……」
「なんだ、晋も知らねえのか。安心した」
「やめろやめろ。底辺争いは見苦しい」
やることやって腹も膨れるとどうしても眠くなる。これは俺だけじゃなくて焦凍もそうらしい。
「男の乳首がなんとか言ってたけど、どうでしたか?」
「……聞くな」
「はい……」
その答えだけで満足だった。絆創膏が欲しいというので上げると、慣れた手つきで乳首に貼っている。なんだかそれだけで十分だった。ちくばんする焦凍かわいい。射精後の脳味噌なんてそんなもんだ。
「晋はホテル、行ったことあるのか?」
「あるけど……」
「元カノ……?」
「自分で振った話でキレるのやめてよ……そうだよ」
少しだけ刺々しい空気を発していたが、眠気に勝てなかったらしい。ひとまわり小さい俺を胸元に押し付けて、俺はぬいぐるみじゃねえぞと言っても無視。じわじわとあたたかな体温が沁みてきて俺も眠たくなってきてしまった。やわらかおっぱいではなくてカチカチの胸筋に顔を埋めるなんて昔じゃ考えられなかったけど、これはこれで悪くないものだと知ってしまった。焦凍のせいで。