俺の家は何代も同じ店で寿司屋を営んでいる。
芸能人とか、ヒーローとかもプライベートでいらっしゃるようなまあまあの有名店だ。親のしいたレールが嫌になって逃げ出すなんて思春期にはよくあることらしく、中学の時には髪を金に染めてバイクを乗り回したりした。わかりやすいヤンキーになりたかったが、ヤンキーの解像度が低かった。すぐパシリになって、ダサすぎる抜け方をした。
今やヤンキーでも高卒が多く、中卒で寿司屋なんて同じような境遇のやつ会ったことない。今は親の跡を継ぐということに異論はない。というかそれしか生き方が見当たらない。ベンキョーも嫌いだし、個性だって手のひらが少し冷えるというどうみても寿司屋向きの個性。個性ガチャなんて言葉があるけど、ガチャSSR引いてたらまた人生が違ったものになるのかもしれないななんて思った。
「晋也ぁ、今日は轟さんの皆様が来るからな。お子さんの布団出しといてくれ」
「了解、珍しいな」
轟さんというのはエンデヴァーをはじめとした有名なヒーローを輩出した一家だ。今は二男の夏雄さんにお子さんが産まれて、少し態度が軟化したとかなんとかで轟家として初めての会食なんだそうだ。寿司屋だけどお子様膳を用意している甲斐があるというものだ。
「あのエンデヴァーの会見出てから轟家大変だったろうな」
「そうだろうが、家庭のことに首を突っ込むなよ」
「わかってるよそんぐらい」
洗ってふかふかにしておいた布団をお座敷に出す前に陰干しする。何度も痛ましいことがあり綻んでしまった家族が再び結びつこうという時に立ち会える。サービス業やっているとこういうことがあるからやっていける。他人の人生の楽しいところを共に過ごせる。
「あれ? 焦凍?」
「おお、晋。久しぶり。今日予約あるからっていうけど早くね?」
轟さんちの輩出したヒーローの一人、焦凍。俺と小中一緒だったと言うことでいまだに気安く話しかけてくれるけど、雲の上になってしまった。多分焦凍はそんなこと思う人じゃないと思うけど。
「ああ、晋と話しにきた」
「え〜、焦凍みたいに今やプロになった人が凡人の俺と話してくれるの〜」
「なんだ。珍しいな僻みっぽいこと言って」
「だってそうじゃん。焦凍は雄英でたくさん友達できたでしょ?」
「小中の友達とは違うだろ。なあそんなこと言わないでくれよ」
「う〜」
「晋、どうしたんだよ」
どうしても歯切れの悪い答えしかできない。いい思い出だけじゃないんだ。焦凍とは。
「なんかお前とはさ、つ、付き合うとか付き合わないとかあって俺まだ消化できてないんだ。昔のことだって思うかもしれないけどさ」
「……? 俺ら別れたことになってるのか?」
「え?」
「え?」
手汗で冷たくなった手が握られたのも現実味があまりない。俺今はいないけど別れたと思ってから一度彼女できてるんだけど。
「ちょ、ちょっと待ってよ。状況整理しよう。流石のエンデヴァーも義務教育は無視できなくなって小2で俺と同じ小学校入ってきて隣の席で、まあそんな初対面だったよね……その後は?」
「精通した俺が相談した先が晋だった」
「だーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」
「どうした?」
「どうした? じゃねえんだわ。ここ俺の家。家族に言えねえこと話すな。俺の車出すから移動しながら話そ」
「海浜公園に行きたい」
「……いいよ」
中古のバン、店の名前が入っていない方に乗った。ここでワンチャンあったらね。困るからね。店のバンでホテルなんか入れないからね。
「魚くさい」
「当たり前だろ。魚運んでるんだから」
「で、なんだっけ……そ、その精通の頃って小6とかだっけ?」
「多分そう」
「そのまま何となく気まずいまま中学上がって……でなんか付き合うとか付き合わないとかやった気がする」
「俺が好きだから付き合おうって言ったらヤダって言った」
「え、ええ〜?」
「一度ヌいてやったくらいで恋人ヅラすんなって言われた」
「え、えええ〜? え?まじ? ……ここでウソいうタイプじゃないし、ホントなんだろうけど……俺ひどくない?」
「ひどい。なんかチャラチャラしたグループの下っ端に入れることになってから」
「うわ〜〜〜ー俺が金髪になったくらいのことだろ、それ」
「覚えてるか?」
「思い出してきた」
今聞いても酷さに身が凍る言葉がずっとトゲのように刺さっていたのだと思う。それでも友達としてやってきてくれたんだから頭が上がらないと同時に、なんでだ?という気持ちになる。
「そこから俺がパシリになって、焦凍がシメてくれたのに俺が友達に助けてもらったなんてカッコ悪いからって焦凍を避けた記憶ある」
「でも俺は晋のことが好きだから、晋が困ってると思ってやった」
「そんなさ、ひどいこと言うしカッコ悪い俺になんでまた付き合おうって言ったのさ」
「好きだったから」
「う〜ー〜ーーーーん。 多分それ、俺が冗談だと思って処理してるな。その後彼女作ったし」
「は?」
「いやだって……俺カッコ悪いし、サイテーなこと言うし……好きになるポイントないだろ」
「はあ? 女?」
「女ぁ……お、怒んないでえ……」
「なんで俺の言うことを信じてくれないんだよ」
「言い返せないな……」
「言い返せよ。 俺を信用できない理由を言えよ」
運転中だから〜と言い訳できないちょっとした渋滞にハマってしまった。焦凍からの目線が刺さる。ちょっと顔近すぎないですか……?と言っても無視されたし。
「俺が焦凍を信頼できないんじゃなくて、俺が俺の価値を信用できてないというか……そんな、もうずっと遠くのすごい人になっちゃった今の焦凍とは釣り合わないよ。昔のかわいくてなんもできなくて俺がなんとかしてやらなきゃ、みたいな焦凍とは違うだろ。もう俺なんて捨てていけよ」
「絶対に嫌。ふざけんのも大概にしろよ」
「即答ですか」
「釣り合うとか釣り合わねえとか御託並べるのは上手くなったな。ほんとに。何が怖くてそんななってんのか知らねえけど、俺がお前のこと好きなんだよ。だからお前も俺のこと好きになれよ」
「随分強引だな」
「そうでもしねえとお前、俺のこと信用しないだろ」
「まあな……」
諦めの悪さは小さい頃から変わっていない。そこがかわいいところなのかもしれないけど少し恐ろしくもある。とんでもねえのに目をつけられてしまったなと。
「てかさあ、別れていないつもりでいたならなんでこんなに放置してた……訳じゃないか。時々来てたのそういうことだったのか」
「晋は本当に俺のこと信じてないのな」
「そういうことになるかな」
「……まあいい。これからどうにかなるだろ。ほら、キスしろ」
「い、今運転中だから」
「車止まってるだろ」
「……そうだった」
俺が焦凍のこと好きになるってことになんの疑問も抱いてなさそうなのがムカつくけど、こうなったら素直が一番なので素直にキスしておく。
「あ、あとお前の店の近くに事務所建てるから」
「……?」
「逃さねえからな」
大変なことに、すでになっていたのだった。俺が知らないだけで。
その後もうめちゃいい雰囲気になったけど家族の用事をすっぽかすわけにもいかないので焦凍と店に戻った。あれ絶対何してもいいってお話だったのにこれはない。今後に期待するとします。
芸能人とか、ヒーローとかもプライベートでいらっしゃるようなまあまあの有名店だ。親のしいたレールが嫌になって逃げ出すなんて思春期にはよくあることらしく、中学の時には髪を金に染めてバイクを乗り回したりした。わかりやすいヤンキーになりたかったが、ヤンキーの解像度が低かった。すぐパシリになって、ダサすぎる抜け方をした。
今やヤンキーでも高卒が多く、中卒で寿司屋なんて同じような境遇のやつ会ったことない。今は親の跡を継ぐということに異論はない。というかそれしか生き方が見当たらない。ベンキョーも嫌いだし、個性だって手のひらが少し冷えるというどうみても寿司屋向きの個性。個性ガチャなんて言葉があるけど、ガチャSSR引いてたらまた人生が違ったものになるのかもしれないななんて思った。
「晋也ぁ、今日は轟さんの皆様が来るからな。お子さんの布団出しといてくれ」
「了解、珍しいな」
轟さんというのはエンデヴァーをはじめとした有名なヒーローを輩出した一家だ。今は二男の夏雄さんにお子さんが産まれて、少し態度が軟化したとかなんとかで轟家として初めての会食なんだそうだ。寿司屋だけどお子様膳を用意している甲斐があるというものだ。
「あのエンデヴァーの会見出てから轟家大変だったろうな」
「そうだろうが、家庭のことに首を突っ込むなよ」
「わかってるよそんぐらい」
洗ってふかふかにしておいた布団をお座敷に出す前に陰干しする。何度も痛ましいことがあり綻んでしまった家族が再び結びつこうという時に立ち会える。サービス業やっているとこういうことがあるからやっていける。他人の人生の楽しいところを共に過ごせる。
「あれ? 焦凍?」
「おお、晋。久しぶり。今日予約あるからっていうけど早くね?」
轟さんちの輩出したヒーローの一人、焦凍。俺と小中一緒だったと言うことでいまだに気安く話しかけてくれるけど、雲の上になってしまった。多分焦凍はそんなこと思う人じゃないと思うけど。
「ああ、晋と話しにきた」
「え〜、焦凍みたいに今やプロになった人が凡人の俺と話してくれるの〜」
「なんだ。珍しいな僻みっぽいこと言って」
「だってそうじゃん。焦凍は雄英でたくさん友達できたでしょ?」
「小中の友達とは違うだろ。なあそんなこと言わないでくれよ」
「う〜」
「晋、どうしたんだよ」
どうしても歯切れの悪い答えしかできない。いい思い出だけじゃないんだ。焦凍とは。
「なんかお前とはさ、つ、付き合うとか付き合わないとかあって俺まだ消化できてないんだ。昔のことだって思うかもしれないけどさ」
「……? 俺ら別れたことになってるのか?」
「え?」
「え?」
手汗で冷たくなった手が握られたのも現実味があまりない。俺今はいないけど別れたと思ってから一度彼女できてるんだけど。
「ちょ、ちょっと待ってよ。状況整理しよう。流石のエンデヴァーも義務教育は無視できなくなって小2で俺と同じ小学校入ってきて隣の席で、まあそんな初対面だったよね……その後は?」
「精通した俺が相談した先が晋だった」
「だーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」
「どうした?」
「どうした? じゃねえんだわ。ここ俺の家。家族に言えねえこと話すな。俺の車出すから移動しながら話そ」
「海浜公園に行きたい」
「……いいよ」
中古のバン、店の名前が入っていない方に乗った。ここでワンチャンあったらね。困るからね。店のバンでホテルなんか入れないからね。
「魚くさい」
「当たり前だろ。魚運んでるんだから」
「で、なんだっけ……そ、その精通の頃って小6とかだっけ?」
「多分そう」
「そのまま何となく気まずいまま中学上がって……でなんか付き合うとか付き合わないとかやった気がする」
「俺が好きだから付き合おうって言ったらヤダって言った」
「え、ええ〜?」
「一度ヌいてやったくらいで恋人ヅラすんなって言われた」
「え、えええ〜? え?まじ? ……ここでウソいうタイプじゃないし、ホントなんだろうけど……俺ひどくない?」
「ひどい。なんかチャラチャラしたグループの下っ端に入れることになってから」
「うわ〜〜〜ー俺が金髪になったくらいのことだろ、それ」
「覚えてるか?」
「思い出してきた」
今聞いても酷さに身が凍る言葉がずっとトゲのように刺さっていたのだと思う。それでも友達としてやってきてくれたんだから頭が上がらないと同時に、なんでだ?という気持ちになる。
「そこから俺がパシリになって、焦凍がシメてくれたのに俺が友達に助けてもらったなんてカッコ悪いからって焦凍を避けた記憶ある」
「でも俺は晋のことが好きだから、晋が困ってると思ってやった」
「そんなさ、ひどいこと言うしカッコ悪い俺になんでまた付き合おうって言ったのさ」
「好きだったから」
「う〜ー〜ーーーーん。 多分それ、俺が冗談だと思って処理してるな。その後彼女作ったし」
「は?」
「いやだって……俺カッコ悪いし、サイテーなこと言うし……好きになるポイントないだろ」
「はあ? 女?」
「女ぁ……お、怒んないでえ……」
「なんで俺の言うことを信じてくれないんだよ」
「言い返せないな……」
「言い返せよ。 俺を信用できない理由を言えよ」
運転中だから〜と言い訳できないちょっとした渋滞にハマってしまった。焦凍からの目線が刺さる。ちょっと顔近すぎないですか……?と言っても無視されたし。
「俺が焦凍を信頼できないんじゃなくて、俺が俺の価値を信用できてないというか……そんな、もうずっと遠くのすごい人になっちゃった今の焦凍とは釣り合わないよ。昔のかわいくてなんもできなくて俺がなんとかしてやらなきゃ、みたいな焦凍とは違うだろ。もう俺なんて捨てていけよ」
「絶対に嫌。ふざけんのも大概にしろよ」
「即答ですか」
「釣り合うとか釣り合わねえとか御託並べるのは上手くなったな。ほんとに。何が怖くてそんななってんのか知らねえけど、俺がお前のこと好きなんだよ。だからお前も俺のこと好きになれよ」
「随分強引だな」
「そうでもしねえとお前、俺のこと信用しないだろ」
「まあな……」
諦めの悪さは小さい頃から変わっていない。そこがかわいいところなのかもしれないけど少し恐ろしくもある。とんでもねえのに目をつけられてしまったなと。
「てかさあ、別れていないつもりでいたならなんでこんなに放置してた……訳じゃないか。時々来てたのそういうことだったのか」
「晋は本当に俺のこと信じてないのな」
「そういうことになるかな」
「……まあいい。これからどうにかなるだろ。ほら、キスしろ」
「い、今運転中だから」
「車止まってるだろ」
「……そうだった」
俺が焦凍のこと好きになるってことになんの疑問も抱いてなさそうなのがムカつくけど、こうなったら素直が一番なので素直にキスしておく。
「あ、あとお前の店の近くに事務所建てるから」
「……?」
「逃さねえからな」
大変なことに、すでになっていたのだった。俺が知らないだけで。
その後もうめちゃいい雰囲気になったけど家族の用事をすっぽかすわけにもいかないので焦凍と店に戻った。あれ絶対何してもいいってお話だったのにこれはない。今後に期待するとします。