「お兄ちゃん、まだ熱あるの?」
「そうみたい。だから今日はお仕事お休み」
「そっかあ。ナマエお姉さん、僕たちが帰るまでお兄ちゃんのお世話お願いね」
「はいはい」
猫の世話を頼むように兄の世話を押しつ……頼んで学校へ向かった。残されたガキことロディはこれまた死にかけの猫のように威嚇してくる。小さな鳥ちゃんはいつだってかわいいので私のそばでぴちぴち鳴いている。飼い主もこのくらい可愛ければいいのにな、というと鳥ちゃんはまたぴちぴち鳴いて。かわいい。
「寝てろよ」
「でも」
「今日はいいって言ってんだろ。子守唄がいるか?」
「……いらない」
「なら寝ろ」
素直に眠りにつこうとしたので、邪魔しないように仕事部屋に行く。ガキのお世話だけしているわけにはいかないので仕事を始めることにした。特段うるさくする様子もなかったので実に捗った。小さな鳥ちゃんはいつだって可愛く、専用の止まり木を用意してあげたけれど私の肩に止まってぴちぴち鳴いている。
昼休みに様子を見ると、キッチンに立っていた。
「おい病人、もういいのかよ」
「おかげさまで。もういいよ」
「そ。メシ作ってる?」
「見ればわかるだろ」
「可愛くねえガキ……よくなったんなら家事やれよ」
「わかってるよ」
可愛くねえガキとうまい飯。こんなことならカフェに行ってもよかったなと思ったが、メシが出されてしまったら逆らえずに完食。なんかもっと、逆らいたい。食欲に。今日は三人とも家に帰るというので今から少しせいせいしている。騒がしすぎたんだ最近は。小さな鳥ちゃんとは別れ難く、しばしお別れのキスをした。鳥ちゃんもいつまでも私の方を見てぴちぴち鳴いている。かわいい。
「ナマエお姉さん、お兄ちゃんのお世話ありがとう。一人で寝れる?」
「…………寝れるよ」
「なら心配ないや。またね」
こんなに静かだったかと思うくらい、静かな家だ。空調と、隣の家の物音だけ聞こえる世界。小さなガキ二人とデカいガキ一人。いないとなるとなんとなく……認めたくはないが、少しばかりの寂しさを感じる。チビが置いていったボール、クレヨンの黄色、そしてサングラス。自分が自分で嫌になるけれど、早く明日になって帰ってこないかなと思うほどにはあの騒がしさが恋しくなってしまっている。
「ただいまあ」
「おかえり」
「ナマエお姉さん、寂しいようって泣かなかった?」
「泣いてねーし」
「ほんと?」
「ほんと」
なかなか生意気な口をきくようになったチビどもをあしらって家に入れる。本当は少しだけ泣いたけど絶対にいわない。可愛さのかけらもないデカいガキは今日も今日とてうちの家事に励んでいる。私は仕事しながら時々小さくてかわいい鳥ちゃんと戯れて。煩雑な家事が格安で片付くのは悪くない。
「このめちゃかわいい鳥ちゃん、名前あるの」
「ピノ」
「あら〜っピノちゃん!世界一可愛い鳥ちゃん〜!」
「……」
なんでお前にジト目で見られなくちゃならねえんだよと言ったけど返事はなかった。ピノちゃんを取られて悔しいのか?
「ロディお前、男娼やってた割には童貞だろ」
「は、はぁ〜〜〜〜〜〜???」
そんないじりで顔真っ赤になっているあたりバレバレ。
「私が初めての客だったわけだ」
「……そう」
「へー、その初々しさでどうにかしようと思った?テクがないとリピこないよ?」
「うるさいな。もう辞めたからいいんだよ」
「チッ、もっといじれそうだったのに」
「性悪女」
「甘んじて受けておこう。ねえピノちゃん」
飼い主と仲が悪くても、ピノちゃんとはめちゃ仲良しなのはいいことだ。私のこと好き?と聞くとぴちぴち鳴いてご機嫌だ。
「そういえばさあ、お前の個性なんなの?」
「言いたくない」
「あっそ」
隠されると聞きたくなるのは人の性だと言い聞かせて、ロディがいないときに弟妹たちに聞いてみた。あんたらの兄さんの個性はなんなのと。
「ピノだよ?」
「あ?」
「ピノがお兄ちゃんの本当の気持ちなの」
「は、はあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜???」
今までの小さくて可愛い鳥ちゃんとのめくるめくイチャイチャに目の前が真っ暗になりそうだった。っていうか私がピノといちゃついてるのを黙って見てるなよ、ロディ。聞かなければよかったと心底後悔した。自分から言いたくないと言われたものをほじくり返したくせに。
「もう知ってるかと思ってた」
「し、知らない方がよかった……」
「僕知ってる! 後悔先に立たずだよね!」
「そうだよー、ロロは頭がいいね」
「えへへ」
照れ笑いを浮かべたロロの頭を撫でて、ばつが悪そうに肩に乗ってきたピノの嘴を撫でた。お前は悪くないよ、というとまあそうでしょうねみたいな表情をした。イラッとするけどかわいい。
「ナマエお姉さんの個性は?」
「私?しょぼいから言いたくないんだけど……少しだけ力持ちだよ」
「便利じゃん。いいなあ」
「そうかな」
宿題が終わったから遊びに行く、といって二人とも出かけていった。入れ替わりにロディが帰ってきて、なんだか気まずい。それに私は少し疑っている。そんな面白個性があるのかと。物は試しだと思い両手を広げておいでと呼んでみた。
釣れた。無言でハグしている謎の展開になってしまっている。
「なるほど」
「……ナマエさん、俺の個性のこと聞いたでしょ」
「興味本位で」
「ふざけんなばーーーか」
「声でっか……私のかわいいピノちゃん、かわいいのはお前だったなんてな」
「悪かったな」
「悪い。ピノちゃんが私といちゃついてた時恥ずかしくて死にそうだったろ」
「まあね」
「ひねくれたガキには勿体無い個性だ。あまりにもかわいすぎる」
「偉そうに」
「偉いからな。雇用主だぞ」
「パワハラ」
お互い恥ずかしさのあまり饒舌になっている気がする。じわじわ染みる体温に脳が溶けていっているとしか思えない。早く離さないとこっちがおかしくなりそうだ。
「はいおわりー。メシ作れや」
「あんたが呼んだんだろ」
「未成年に手出しする趣味ありません」
「そうやって逃げて……大人ってずるい」
「お前も大人になればわかるよ」
「……ずるい」
私の肩に頭を乗せてくる。ほっぺにキスしてやったら唇にキスされた。まあマセガキといじる間も無く。
「待ってろよ。絶対浮気するなよ」
「……まあそうね、多分しないんじゃないかな」
「……」
無言で指輪をはめられてしまった。重たい。感情が重たすぎる。
「死んだ母さんの形見。なくすなよ」
「重たいな」
「そんぐらいしないと逃げるだろ」
「バレたか」
「尻軽で、乱暴なナマエさんのすることぐらいバレてるよ」
「誰が可愛くて尻軽だ」
「……」
「黙るな」
少し優しくしてやったらこれだ。まあ子供がいう好きはそんなもんだろうとたかを括っていたら指輪まではめられて。こういうこと冗談でするようにも思えないけれど、重たい
