プロヒーローとかいうキラキラを纏った徴兵は道端に死が転がる危険なものだ。それを顧みず公のために己を捧げる姿はいつの時代も美しい。自己犠牲って綺麗に飾れば飾るほど輝くっていうことを超人社会が黎明期の頃からうたわれていただろうよ。それを利用したり、おもちゃにする人間が出てこないようにするような倫理観はまだ醸成されていない。
そう、消太の人生は毎日が死出の旅路なのだ。プロヒーローになったら私事は二の次、公のために奉公せよ、みたいな雰囲気があって、助ける側も助けられる側もそれが当たり前だと思っているような節がある。
「消太はそれで納得してるん」
「別に首に縄かけられて徴兵されてるわけじゃない」
「あっそう……」
消太からしおらしい答えなんて最初から期待しているわけじゃないけど、まあそれなりのことを致した後のピロートークというやつですら可愛らしい答えが返ってこないというのは些か寂しいものがある。
「何が言いたい」
「消太が明日遺体で帰ってきたとして、俺は冷静でいれられるだろうかっつーテツガク的な問いよ」
「どこも哲学じゃないけど、俺が死ぬ前提か?」
「いつそうなってもおかしくないから、気持ちの準備は必要じゃん。現に片目と片足を失ったし」
「それは結果だろ、どうした晋。お前らしくないぞ。もっと軽薄で考えなしだろ、お前」
「ひっど〜い。俺はこれでも消太のこと愛しているのに」
「……」
そこ黙って嫌そうな顔するところかよ。
「晋、そこにもう何もないからな」
「ちょっと前までかわいい足があったんよ」
「……お前、なんか変な趣味あったか?」
「なかったが、かわいい俺の消太の脚と片目がなくなってから俺の中で何か……起きたな……」
今は義足となって触感も何もないはずの脚を撫でさすると、消太は気持ち悪そうに残った足で俺の頭をこづいた。離れろ、と言われたけど無視した。
「ね、傷跡みてもいい?」
心底嫌そうな顔をしながらも見せてくれるのだからこいつまじでかわいい。愛しい。医療の粋を集めたとしてもこれだけグジョグジョの傷跡になってしまうのだから、自分で切り捨てたってどれだけ精神強いんだよ。
薄皮の向こうにすぐ肉がある感触はこの傷跡以外だと尻穴くらいだ。より粘膜に近い触り心地の傷跡をやさしく弄るとなかなかにいい反応が帰ってきた。キスして、唇で食むと本気の蹴りがきてしまった。消太は自分の知見以外のところで感じちゃうと混乱のあまり俺を排除しようとするのだ。危険すぎる。愛する人の性感帯の拡張は命懸けなのである。
「また今度ね」
本気でいやなら、死ね……と言ってくるし、セーフワードだって決めてあるしで今回はまだアリな方なんだと思う。眼球のない眼窩をアイパッチの上からさするとあるのは窪みだけだ。底なしの虚無がある。自己犠牲という美しい虚像に踊らされている純朴な大人なんだ。こんなにかわいくないこと言う大人だけど。
寝巻きがわりのスエットを着ているということはこのまま寝るつもりらしいけど、俺はそうじゃない。久しぶりに恋人と会って易々と寝させるものかと思う気持ちと、そこまで乗り気じゃないのに無理矢理付き合わせるのもなあという気持ち。
もやもやとした気持ちを抱えながら消太の首筋を舐めたり唇を這わせたりしていたら怒られた。本気で寝るつもりだったのかも。
「あえっ」
「情けない声出すな」
すぐ怒る。かわいいんだけどね。怒ってても。
腹の上に乗っかられて身動き取れないでいると、消太は服を脱ぎはじめた。
「わっ、何……ストリッ」
俺の戯言はキスで塞がれた。キスで黙らせるとかスパダリのすることだろ。
「さんざん煽られて、黙って寝れねえだろ」
「やったー 消太大好き♡ 」
そこで舌打ちするんだ……というところで容赦ない舌打ち。かわいいのか可愛くねえのかどっちかにしてくれ。
若いうちは消太からもかわいい喘ぎが聞けたんだけど最近はご無沙汰だ。俺が満足させてないのかな。そういえば、結腸まで届くとなかなか反応がいいと聞いた。やってみるか。消太も今日は機嫌良さそうだし。
「いつもがこの辺までならもう少し奥かな……よっ」
「??♡ ?あ゛っ゛?♡ ???♡ ???!!?!!?!!!??」
「当たりかあ……」
「ま゛ッ…・・・・・、、おま゛っ、なにっ・・……何したっ」
「インターネットエッチサイトで見た結腸責めというやつ」
「ッぐ・・…・・♡ ♡ 変な知識つけやがってっ…!」
「でもキモチイイでしょ?」
「だまれッッ…・・・・…!」
まだセーフワードを言わないってことは続けてもいいらしい。素直に喘ぎ散らかしてもいいのにと思うけど、彼は彼なりにプライドとかあるだろうしまあ良いだろう。
「…・・っ、ぐっ゛…・・・ッ、ふ」
身体は正直だからいつも義務的なふうに俺に揺さぶられているままになってるけど、今日は身を捩ったり背中をそらしたりどうにかして自分の中に灯る熱を逃そうと必死になっているふうだ。こういうとき下手に声かけると意地になって我慢しようとするから好きにさせておく。じき耐えられなくなってふにゃふにゃになるだろうし。
「だいぶ気持ちやわらかくなってきた?」
「はーっ゛…♡ ♡ もう゛っ、もう動くな゛っ…くるしい…・・♡ 」
「もうちょっと」
「う゛ぐっ゛っ゛…・・♡ ♡ ん゛ッ、、あ゛っ♡ ♡ あ゛あ゛っ…・・♡ ♡ 」
若い頃に比べるとだいぶ控えめな声をあげて消太は一度も触れなかった男性器から吐精した。おお、メスイキ。久しぶりに見た気がする。昔盛りのついた犬みたいにヤりまくった時に見たやつ。
まだ虚を見ている消太の唇にキスをすると抱きしめられたのでそのままにしておく。よっぽど気持ちよかったのかもしれない。ゴムを捨てて、隣に寝転ぶとまだ引っ付いてくる。あれ、俺この後殺されるとかかな。こんな時は何も言わないのが吉。長い付き合いで俺も学んでいるんだよ。
致すこと致してから寝落ちなんて何年ぶりだろう。そんなに燃えることなかったからな最近。
汗かいてると二人ともパンイチでうろうろしてしまう。服着るとベタベタするから。それに加えて消太は以前より着替えを億劫がるようになった。そりゃあ前と勝手が違うんだからそうだろう。流石にフルチンだと俺のエッチ感度の治安が悪くなりそうだから履かせている。
「今日も仕事?」
「教員に休みはほぼない。こんな状況でさらに」
「あ〜。じゃあ今日はラッキーだったってことか」
「そういうことだ」
じゃ、と先ほどまでの乱れようは何処へやら。消太先生に戻ってしまった。俺のかわいい消太の別面……B面って言うと歳がバレるからいわない。
「また会えるよね」
「なんだ。しおらしい」
「消太になんかあったら、俺に連絡くるよね?」
妙な沈黙の後、なんでもなさそうなふりをしてとんでもないことを言った。
「……親族欄にお前の連絡先を書いた」
「……??!!?!?!! そのうれしい情報、もっと早く聞きたかった」
「あーうるさいうるさい。じゃあな」
乱暴にキスをして、帰っていく。明日もしれぬ身で俺に跡を残していくのだから、ずるい男だ。さよならも言わずに死んでいく男のくせにかわいいんだから困る。