「暑いですね、春なのに」
「そやなあ、春なのに」

つないでいる手はベタつき始めている。恥ずかしい。手汗が止まらないけど離したくなくて薄いガーゼのハンカチを噛ませた。これでまだつないでいられる。
春って言っても入学式の前の日なんだからそんなに暑くなることは珍しい。
「立派に学んできてくださいね」
「お前もな、大変かと思うけど」
「竜士くんが学んでくるような立派なこと学べるかな 竜士くんのいないところでフツーに高校生やって楽しいのかな」
「それはお前次第じゃねえのか?」
「そうだよ そうだけど」
「そろそろ、時間だ。行くな」
「ねえ、竜士くんあのね、無事卒業したらさ、私大学生になってると思うんだけど、そしたらさ、結婚しない」
「は、はあ?!俺が言おうとしてめちゃくちゃバイトして婚約指輪っちゅーかネックレス?買ったんに」
「ええ!ほ、ほんとに? 私何も用意してない……じ、じゃあさ、誓いのちゅーしよ」
「まっ、おま、そう……わかった……俺も覚悟決めるわ……」
「もっと気楽にさ、好きだから一緒にいたいひとがいるなー、うれしいなーって感じでいこうよ」
「お、おう」


竜士くんはなかなか金具が外せなかったけど私の首にネックレスをかけてくれた。優しいあおいろの石がはまっている。
「やめるときも健やかなるときも怪我したときもなんかうれしいときもそばに居て支え合うことを誓いますか」
「……仕事が仕事やし、いつも一緒は難しいかもしれん」
「そこはまあ、努力義務ということで……だいすきだよ、竜士くん」
「お、俺もや」

はじめてキスはレモン味じゃなくてなんか味とかそういう問題じゃなくて、好きが脳からだばだば溢れて、何か別の生き物になってしまいそうな気がするくらいの。
これから年に数度あるかないかの帰省で会うしかなくなるけど、今何か別の生き物になったから大丈夫、すきだよ。