こんなこと、彼がするはずがないというのは僕が一番よくわかっているからだ。
 夢の中の僕は怪我をてしまって入院している。もうサッカーができなくなるかもしれない。
 それでもカイザーは僕のお見舞いにマメに来てくれて、「お前が戻るのを待っている」とか「お前がいないとうまくいかないことがある」なんて言ってくれる。
 俺がこうあってほしいと思っていることが夢になってるとしたらとっても情けないし恥ずかしいから早く目覚めたいんだけど、どうしても目覚めることができない。僕に優しい言葉を吐き続けるカイザーの形をした幻に相槌を打つ。
 役に立たなくなった僕に構うカイザーはカイザーじゃない。こんな僕の願望で歪んでしまったカイザーと話しているとおかしくなりそうだ。
 
 
 ドッ、とベッドに誰かが座る衝撃があり、目が覚めた。
 
「何寝てんだ」
「深夜なので……」
 寝汗でしっとりと湿ったシャツを脱ぎ捨てて、あわい金髪から肌の青薔薇へと目を滑らせた。僕の夢の中のとは全くもって違う、僕の知っているカイザーが不機嫌そうに僕のベッドサイドに座っている。
 
「今日は俺が深夜に帰国するって知ってただろ」
「……! 知ってました!」
「なら何で寝てる」
「えへ……! そ、そうですよねカイザー!あなたはそうでなくちゃ!そうであってください!ね!ね!」
「うるさい。適当な運動着用意しろ。少し身体動かすから、付き合え」
「もちろんです!」
 ベッドから飛び起きて、カイザーのクローゼットから運動着とサッカー用の厚手の靴下を取り出して渡した。さも当然かのように受け取り、何も言わずに着替え始める。そう、そうこれが僕の知るカイザーだ。誰のことも見ずに自分の道を進んでいく光、後ろに続く民草のために道を拓く皇帝。僕はすっかりうれしくなって、室内練習場の空調と電気を操作して、ストレッチ用のマットを持って行った。

 夢の中のカイザーは起こして悪かったとか言うだろうけど現実のは言わない。それでいい。それが、いい。

2023/9/16



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