死んでしまった方が、生き延びた俺があの時死んでおかなかったから今の苦しみがある、だなんていう考えから解放されるのかもと思ったことがある。
 農家の方から野菜を盗んで捕まって、お腹減ってるのかと聞かれて答えないでいたらおにぎりとお味噌汁いただいて……それで、警察呼ばれたときとか、駅前の大きなディスプレイにヒーローには正しさ以外を持ち合わせないと言わんばかりの持ち上げ方をしてた時とか、俺とそんなに歳が変わらないくらいの集団に、路上生活をしているからという理由でリンチされたときとか。もちろん、今挙げた人たち全員骨も残らないくらい焼くことはできたんだけど、その時はまだ殺しが俺の選択肢の上位に入ってなかったんだよね。
 
 生きていたから、今のよろこびがある。
 
 俺が燈矢だとわかったとき、今にも吐きそうなお父さんの顔、写真に収めておきたかったけどそんな余裕はなかった。正直、焦凍もそれなりに強かったし、他の邪魔も入った。
 
 生きていたからこそ、今の苦しみがある。
 
 もしあの時死んでいたら、お父さんが俺を見る目が敵を見るものになっちゃったと認識することはなかった。お父さんが、英雄として死んでいったのかもしれない。愛想こそなかったものの、やることはしっかりやるヒーロー、だなんて。ああ、あの時諦めずに前に進んでよかった。俺はエンデヴァーの息子だもん、努力を大切にしてるんだよ。努力を蔑ろにして、生殖で夢を叶えようとしたお父さんのこと全然見下してないよ、軽蔑だってしてない。うんまあ、多分そう。
2023/2/28 wavebox