「エンデヴァー、助けてくださってありがとうございました。これはお礼です」
 村人たちはたいへん喜び、秘伝の宝を取り出しました。めでたし、めでたし。
「これは……?」
「ここでとれることは誰にも言わないでください。これは人魚の肉です。食べれば不老不死となるという伝説があります」
「はあ……」
「疑っておいでですね。無理もありません。丘の上の庵をたずねてみてください。何百年も前に人魚の肉を食べた尼がおります」


「ごめんください」
「どなたさまですか」
「突然お尋ねして申し訳ありません。その……麓の村で人魚の肉と言われているものを頂いたのですが」
「その効能についてですね。私は四百年以上前に人魚の肉を食べ、老いもせず、死にもしない身体になりました……といっても信じがたいでしょうね。昔のものですが、身分証です。個性登録の欄がないのは、個性が発現するよりももっとむかしだからです」
「ほ、本物だということですね」
「少なくとも、私はこうして数えるのも億劫になるほど長く生きています」
「ありがとうございます。今生死のきわをさまよう子供がいますので、食べさせます。死んでしまうのはつらいでしょうから」
 
 
 
「行ってしまいましたか……死んでしまえた方が、よい場合もありますが……百は耐えられたとしても、それ以降はいつ死ねるかと考える日々でありますゆえ……」
 
 
 
「燈矢、今日の晩御飯はおかゆと肉野菜炒めだ」
「う」
「死ぬつもりだったから胃や食道も焼けてるだって? そうだな……ではミキサーにかけて胃のチューブから入れよう」
「おいしいか?」
「……あ」
「舌も焼けてるのか。そうだったな……」
「これで長生きできるぞ、燈矢」
 
 
「え? 長生きなんてしたくない?」
「どうしてだ?」
「俺はまた間違えてしまったのか……」
「生きていても苦しいだけ? そんなことはないだろう……? い、いや……決めつけるのはよくないな……? 生きていればやれることが増えるかもしれない……だろう? こうしてシモの世話までされて寝たきりのまま世話焼かれているのもつらい? 生きていても、つらい? と、燈矢……」
「お父さんに世話なんかさせたくない? いいんだ。好きでやっていることだから。俺が失敗作みたいだって? そんなふうにおもっったことなんてない。心配いらない。燈矢。お父さんが守ってやるから」
「それでも、生きたくないのか……?」
 
 
 
 
 
 
 
「なら、俺も燈矢と同じだけ生きて、ずっと一緒にいよう。お前が地獄と評する世界だってつれあいがいれば少しは変わるんじゃないか?」
「また修行がしたい? しょうがないな、燈矢は……自分の身体を壊さない程度にしておきなさい。最初は勘を取り戻すところからやろう。どうせ時間はたっぷりあるんだ。心配するな……もうどこにもいかない。お前だけのお父さんだ」
 
 そしてふたりは、末長く、仲良く暮らしました。轟家の誰もがいなくなってしまって、その墓が風化して形をなくし、子孫すらも途絶えてしまうほど、何度季節が巡ったのか数えるのを途中で諦めるほど、エンデヴァーやオールマイトなどのヒーローたちの名前が忘れ去られてしまうほど長く……
 
 
 しあわせにくらしましたとさ。
 おしまい
2022/8/20 wavebox