生まれることはまさしく受身形のことばであるとどこかの誰かが言っていた。
俺もそうだ。
とある目的のために生まれた。ただしくは生まされたのだ。生きることを、強要されている。この父の、妄執を叶えるために。弟たちも、妹もそうだ。
末の弟以外は失敗だった。父は言葉にこそだすことはなかったが、いつそう言われるのかと考えては震えて眠った。俺の手をとってそんなことはない、燈矢は自慢の息子だと言われたとして信じただろうか。父の個性と母の個性、そして体質の良い点すべてを持って生まれた弟。それを境に子を作ることはなくなったということは、要る子が生まれた証ではないか。
母に共犯だと投げかけた言葉がずっと心に棘のように刺さっていた。自分で、母とはいえ他人を刺しておきながら苦しんでいるのだから、間抜けだと思う。母は犠牲者だ。母もまた暴力に怯え、逆らえなかったのだ。多産もDVの一種だって、家を出てから知った。
父だけが悪だったのか。
力あるものを求め、ヒーローだなんてもてはやした末に捨てる衆生に罪はないだろうか。
いまとなっては、誰が悪かいなんてさほど興味はない。結果として俺は荼毘に生まれ……俺は父と母に燈矢として生まされ、父と弟によって荼毘に生まされたから。
焦凍のせいにするのは良くないか。焦凍はただ運がよかっただけで、罪はないのだから。
俺は、そうだな……ヒーローの欺瞞をあばいたということでチャラにならねぇかな。ならねえか。
身体のあちこちにガタが来てるのがわかる。キズが開いて膿が出るうえに縫い目から皮膚がこぼれていく感覚がある。せめてこの世に生まされた怒りを父に受けとめてほしいという気持ちがある。叶わなくとも、俺が、荼毘が父の棘になって生き続けることができるから。
俺は生まされた。そして父に刺さる棘として生き続ける。死ぬまでお父さんと一緒だ。

wavebox