水の中で聞く人の声みたいに、どこかぼんやりとした音が耳に届く。聞こえるからと言って返事をするだけの声帯は焼け落ちてしまっているので、目の動きで文字入力ができる機械でお父さんと意思疎通をする。
 とはいえ細かいニュアンスまでは伝えきれない。そんな苛立ちをぶつけようにも身体はどこも動かない。
 身体中の水分が入れても入れても蒸発するのに、お父さんは俺の胃腸につながる管に水を切らさないようにどんなに遅い夜中だって欠かさず点検している。そんなこともうしなくていいよ、無駄だよって言ってもいいんだ、って言って俺の世話を焼いてお父さん自身がが気持ちよくなってるのをみたくないのにそれを伝えられず俺は横たわることしかできない。
 なんていうかこう、俺が無駄だからやめろって言っても俺のために何かしてくれるのがうれしくないワケじゃない。なんだけど、お父さんが俺を見る目が将来楽しみな息子、じゃなくて自分が世話をしなくては弱って死んでしまう可哀想な息子、になってるのが嫌なんだよな。
 ああ、あの戦いで死ねればよかった。こんな無様を晒すぐらいなら。

2023/4/30


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